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【呪術廻戦】誰も知らない

第25章 いとほし日々[後編]


満月が天上から傾き始め、地面に近づくにつれて八重を満たしていた海の気配も引き始める。
そうして満月が地に沈む頃には、苦しかった心は空になり、後に残ったのは昨日泣きながら誓った決意のみだった。
備え付けの鏡を見て、自分が泣いていたという痕跡が残っていないか確認してから簡単に身支度をして部屋を出る。
洗濯室に行くと昨日洗われなかった物たちが積み重なっていた。
その洗濯物の山達は八重に、待っていたよと言ってくれているように感じて安堵する。
いつものように洗濯機を回して、浴場とシャワー室の清掃へ向かう。
シャワー室の脱衣場に入ると、先客が一人いた。
スーツを着た男性はもう既にシャワーを浴び終えているようだった。

「あ、申し訳ございません」

八重は頭を下げるとすぐに出ていこうとしたが、男性が「いや、もう出るところだ」と言うので清掃の準備をさせてもらうことにした。
ふと思い立って。

「洗い物がございましたら承ります」

男性に声をかけた。
男性は自分の手にする衣服に視線を落とし、そして感情のこもらない目で再び八重を見る。

「いや、自分で洗うから必要ない」

「はい、かしこまりました」

見たことのない男性だったので、もしかしたら最近高専に来た人かもしれないと思い、八重は洗濯室の場所やランドリールームについてなど簡単で伝えた。

「あぁ、わかった」

「私は皆さんの身の回りのお世話をさせていただいております。何かお困りのことがありましたらお声がけください」

やうやうしく頭を下げる八重を男性は顎に指を当て、その指で顎を弾き何かを考えながらまじまじと見る。
そして、八重が顔を上げると口を開いた。

「君は随分若く見えるが、こんな時間から労働しているのか?」

「へ?」

藪から棒にそう言われて気の抜けた声が出てしまったが、その意味を理解して「ふふふ」っと口に手を当てて笑った。

「私はこう見えても長く生きているんですよ?」

男性は少し目を丸くしたが、すぐに元の表情に戻り、「それは失礼した。じゃあ」とだけ言って脱衣場から出ていった。
八重はふーっと息を吐くと清掃に戻り、その後は朝食作りに洗濯干しと忙しい一日に身を投じるのであった。
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