第2章 『ミルク』ちゃん
「ごめんね、ちゃん。……僕がもっと、君を庇えたら良かったのに」
彼らの日常は、爆豪という圧倒的な光に焼かれ否定される日々だった。
には「個性因子」はある。
検査の結果もそう出ているのに何一つ発現しない。
「期待させるだけ残酷だ」
そんな周囲の視線に、二人は「無個性」というレッテルを共有することで、どうにか立っていた。
けれど、中学1年生の春。の身体に残酷な「変化」が訪れる。
「……っ、……い、たい……」
始まりは初潮だった。
女性としての身体の成熟。
それと同時に、の胸には形容しがたい鈍い痛みが居座るようになった。
最初は成長痛だと思っていた。
けれど、排卵期を境にその痛みは「張り」へと変わり、ブラジャーが重く感じるほどに熱を帯びていく。
(なにか、漏れてる……?)
制服の裏地の胸のあたりに、じわりと冷たい感覚が走る。
は慌ててトイレに駆け込み、震える指でシャツのボタンを解いた。
「な……に、これ……」
鏡に映った自分の姿に、血の気が引いた。
膨らんだ胸の先から、真珠のような白い雫が、一滴、また一滴と溢れている。
妊娠なんてしているはずがない。
なのに、それは紛れもなく「乳汁」だった。
指先に触れた雫を、無意識に唇に運ぶ。
――甘い。
驚くほど濃密で、心臓の奥まで痺れるような、 極上の甘み。
それと同時に疲れ切っていた身体が、まるで魔法にかかったかのように軽くなるのを感じた。
「…………っ、」
は、その場にへたり込んだ。
待ち望んでいた「個性」
いつか発現すると信じていた力。
けれど、それは爆豪のような派手な爆破でも、誰かを堂々と守れる力でもなかった。
こんな、身体の奥から溢れる恥ずかしい液体。
もしこれがバレたら「無個性」と馬鹿にされるより、もっとひどい目で見られるのではないか。
爆豪に、あんなに優しい緑谷に、こんな「身体」を知られたら――。
「隠さなきゃ……誰にも、絶対……」
は、溢れ続ける甘い雫を拭いながら、必死に胸を抑え込んだ。
これが、彼女の個性が産声をあげた瞬間であり、同時に、幼馴染二人との決別の序曲だった。