第2章 『ミルク』ちゃん
爆豪がようやく見つけ出したそのアパートの扉が開いたとき、そこにいたのは、今にも消えてしまいそうなほど儚げなだった。
「……おい」
爆豪が声をかけた瞬間、の肩がびくりと跳ねた。
彼女の顔からは一気に血の気が引き、扉のノブを握る指先が白くなるほどに震え始める。
「あ……、……っ、……か、つき…くん…」
その瞳に宿ったのは、暗い自室で味わった「蹂躙」への、剥き出しの恐怖だった。
爆豪が一歩、無意識に足を踏み出すと、は喘ぐような悲鳴を漏らして後ずさる。
「……こ、ないで……。お願い、来ないで……っ」
「……てめぇ、俺は……っ」
「……っ、見ないで……私のこと、もう、思い出さないで……」
は両腕で自分の身体を抱きしめるようにして、がたがたと震えていた。
彼女にとって爆豪の存在は、自分の尊厳を壊した「暴力」そのものになっていた。
「私……、あの日から、自分の個性が怖くて……。夜、寝るのが、怖いの。……かつき、くんに…吸われたところが、ずっと……熱くて、気持ち悪くて……っ」
ぽろぽろと、大きな涙が彼女の頬を伝い落ちる。
その静かな泣き声は爆豪の胸を深く、深く抉った。
「ごめん、なさい……。ごめんなさい……。もう……会いたくない。……顔を見るだけで、あの時の……痛いの、思い出しちゃうから……っ」
「…………っ、」
爆豪は彼女に伸ばした手を、宙で止めることしかできなかった。
今の彼女にとっては自分は恐怖でしかない。
自分の存在そのものが、彼女にとっての「毒」になってしまったのだと思い知らされる。
「……さよなら、勝己くん。……もう、私のことは、忘れて……」
弱々しく、今にも消えそうな声。
パタン、と弱々しい音を立てて閉まったドアの向こうから、彼女の押し殺した泣き声が漏れてくる。
爆豪は、その扉の前で動けなくなった。
自分が守るべきだったはずの幼馴染を、一生消えない恐怖の檻に閉じ込めてしまったという、耐え難い自己嫌悪だけが彼を支配した。
「……クソ……」
彼は二度と、その扉を叩くことはできなかった。