第11章 彼は彼女の心を救いたい 【ONE PIECE マルコ】
「……落ち着いて話してくれ。あそこで、何を見た? 誰にやられたんだよい」
いのりの脳裏に、あの醜悪な笑い声と、背後からサッチを貫いていた刃が鮮明に蘇る。
「……ティーチ、さん……。ティーチさんが、サッチさんを……。私、あの人に捕まって……サッチさんの前で、私……それより、サッチさんは……サッチさんは、助かったんですよね……?」
縋るようないのりの問いに、マルコはすぐには答えられなかった。
ただ、痛ましいほどに震える彼女の肩を、折れてしまいそうなほど細い体を、壊れ物を扱うように優しく引き寄せる。
「……すまねェ。……サッチは、もう旅立っちまったよい」
その言葉が落ちた瞬間、いのりの中から「希望」という名の糸がぷつりと切れた。
「あ……あぁ……っ!!」
喉の奥から、言葉にならない悲鳴が漏れる。
料理を教えてくれた、いつも笑わせてくれた優しい師匠。
彼が、自分の目の前であんな無惨に殺された。
「私のせい……っ、私が、もっと早く気づいていれば……! 私が弱いから、サッチさんは…っ!」
「違う、お前は悪くねェ。悪いのは全部、あいつだ……!」
泣きじゃくり、自分を責めるいのり。
マルコは、かつての絶望の記憶とサッチを失った悲しみに壊れかけている彼女を、力強く、けれどどこまでも温かく抱きしめた。
「今は泣け、いのり。今はただ、泣けばいいよい……」
「……マルコ、さん……っ、サッチさん……っ、サッチさぁん!!」
彼女はマルコの胸に顔を埋め、子供のように声を上げて泣き続けた。
マルコは何も言わず、ただ彼女の背中を大きな手でさすり続ける。
彼の胸元のシャツが、彼女の涙と、癒えぬ心の傷で濡れていく。
「……あんたは一人じゃねェ。サッチの分まで、俺たちが、オヤジが、家族全員で……あんたを守り抜いてみせるからな」
マルコは静かに誓った。
サッチが守ろうとしたこの小さな命を、二度と誰にも踏みにじらせはしないと。
泣き疲れて、絶望の淵で再び意識を失うまで、マルコは彼女を片時も離さず、その温もりを分かち合い続けた。
ーー犯人がわかるとすぐに船中の捜索が始まったが、ティーチの姿はどこにもなく、一艘のジェットダイヤル付きボートが忽然と姿を消していたーー