第11章 彼は彼女の心を救いたい 【ONE PIECE マルコ】
ビクンッ!と、気絶したままのいのりの身体が小さく跳ねる。
白い肌の上に、無惨に飛び散る裏切りの証。
その時、遠くの通路から複数の足音が聞こえてきた。
仲間の気配を察したティーチの口角が、吊り上がる。
「ゼハハハ……仲間のお出ましだな。潮時だ」
ティーチは足元のサッチを一瞥し、そして無惨に汚され転がっているいのりを見下ろした。
その瞳には一欠片の情愛もなく、ただ獲物を喰い散らかした後の満足感だけが浮かんでいる。
「美味かったぜ、お嬢ちゃん。……またな」
ティーチは闇に紛れるように、素早く厨房から夜の海へと身を躍らせた。
静まり返った厨房に残されたのは、血の海に沈むサッチと、白濁にまみれて横たわるいのりの無惨な姿だけだった。
「おい、サッチ、いのり。いつまで厨房を占領して……」
マルコが冗談めかして扉を開けた瞬間、言葉が喉の奥で氷結した。
一歩遅れて後ろから来たエースも、その場に縫い付けられたように動かなくなる。
視界に飛び込んできたのは、赤黒い海。
そして、その中に沈むサッチの姿だった。
「……ッ!? サッチ!!」
マルコは膝を突き、床に伏したサッチの肩を掴む。
その背中は深く貫かれ、白い調理服がどす黒く染まっていた。
マルコの手が震えながら、サッチの頸動脈を、手首を探る。
「……おい、嘘だろ。サッチ、起きろ。……おい!!」
不死鳥の青い炎が揺らめき、彼の傷口を包もうとする。
だが、炎は虚しく空を舞うだけだった。
流れ出た血はまだ少し温かいが、その瞳は光を失っている。
「……マルコ、サッチは……サッチはどうなんだよ……っ!」
エースの悲痛な叫びに、マルコは唇を噛み切り、首を横に振った。
「……脈が、ねェ……。死んでる……ッ」
「なっ…………!!」
エースの拳が激しく震える。
しかし、絶望に浸る間もなかった。
サッチの数歩先、調理台の陰に倒れているいのりの姿を見つけたからだ。