第11章 彼は彼女の心を救いたい 【ONE PIECE マルコ】
その日の宴の喧騒は、夜が更けても衰えることを知らなかった。
「おいサッチ! その実を食って火でも吹いてみせろよ!」
「バカ言え、カナヅチになっちまうのは勘弁だ。……うぷ、ちょっと飲みすぎたよい……。少し風に当たってくる」
赤ら顔のサッチは、悪魔の実を懐にしまい込み、ふらつく足取りで甲板を後にした。
静まり返った厨房。サッチが蛇口をひねり、冷たい水で顔を洗っていた、その時だった。
「……!?」
背後に、音もなく巨大な影が立つ。
振り向く間もなかった。
鋭い刃が、サッチの背後からその身体を深く貫いた。
「が、は……っ!!」
口から溢れる鮮血。
サッチは膝から崩れ落ち、床に転がった。
懐から零れ落ちた「ヤミヤミの実」を、大きな手がつかみ取る。
「……ゼハハハ! ついに、ついに手に入れたぞ……!」
「テ、ィ……チ……お前、何を……」
サッチは薄れゆく意識の中、必死に手を伸ばしてティーチの足首を掴んだ。
家族だと信じていた男の、冷酷な横顔。
そこへ、廊下から軽い足音が近づいてきた。
「サッチさん? 宴会の追加のつまみ、何がいいですか……って、え……?」
扉を開けたいのりの目に飛び込んできたのは、血の海に沈むサッチと、その上に立つティーチの姿だった。
「サッチさん!!」
「来るな……! 逃げろ、いのり……っ!」
サッチの絞り出すような制止も虚しく、駆け寄ろうとしたいのりの細い腕を、ティーチの巨大な手が鷲掴みにした。
「ゼハハハ! 運がいいじゃねェか。ちょうど喉が渇いてたところだ」
「離して……! ティーチさん、どうして……サッチさんが、死んじゃう……っ!」
「死ぬさ。俺の夢の犠牲にな。……だがお嬢ちゃん、あんたはまだ生かしてやる。前からその美味そうな身体、一度味見してみたかったんだ……!」
ティーチは既にその場で奪った実を口にしていた。
彼の体から、不気味な闇の霧が立ち昇る。
ティーチは、虫ケラでも払うように足元のサッチを力任せに蹴り飛ばした。
「ぐはっ……!」
「サッチさん!!」
「他人の心配をしてる場合かよぉ!」
ドサッ、といのりは乱暴に床へ押し倒されると、ティーチの濁った瞳が、獲物を狙う獣のように光った。