第10章 彼は彼女を取り戻したい 【ONE PIECE ロー】
ログが貯まるまでの数日間、島は抜けるような青空に恵まれた。
港近くの賑やかな酒場『シーガル』の一画を、ハートの海賊団が貸し切っている。
「ぎゃはは! 飲め飲めー!」
「もう一杯持ってこい!」
荒くれ者たちの怒号に近い笑い声が飛び交う中、少し遅れて、イッカクに連れられたいのりが店に足を踏み入れた。
先日の買い物で選んだ、淡いブルーのワンピース。
風に揺れる裾と、手入れされて艶を取り戻した髪。
禪院家での地獄を忘れさせるような、穏やかな表情。
その姿が視界に入った瞬間、騒がしかった酒場が、まるで魔法にかけられたように静まり返った。
「……あ、あの……こんばんは?」
いのりが戸惑ったように首を傾げると、数秒の沈黙の後、シャチとペンギンが真っ先に身を乗り出した。
「……おいおい、嘘だろ? あのボロボロだった子が……」
「マジかよ、めちゃくちゃ美少女じゃねェか!!」
「わあああっ! 歓迎だ、野郎共! 乾杯だ!!」
一気に爆発するような歓声。
「おい、こっち座れよ!」
「肉食うか!?」
「俺はシャチ、こっちはペンギンだ。覚えておけよ!」
次々と差し出される料理や飲み物に、いのりは目を白黒させる。
「ええっ、あ、ありがとうございます! ペンギンさん……? 変わったお名前ですね」
「だろ? ここの連中はみんな変な名前ばっかりだ。気にすんな!」
「……ふふっ、本当に。私のいたところでは、もっと……堅苦しい名前ばかりだったので」
いのりの口から、初めて小さな笑い声が漏れた。
それを見たクルーたちが、さらに盛り上がる。
「おっ、笑った! 可愛いじゃねェか!」
「おいベポ! お前ばっかり隣に座るなよ、ずるいぞ!」
「アイアイ! 俺は看病してたんだからいいんだ!」
輪の中心で、いのりは驚いていた。
海賊といえば、恐ろしい略奪者だと思っていた。
けれど、目の前の彼らはただ陽気で、自分を「女」として値踏みするのではなく、温かく迎え入れてくれている。
少し離れたカウンターの隅で、ローは一人、静かにジョッキを傾けながらその光景を眺めていた。