第10章 彼は彼女を取り戻したい 【ONE PIECE ロー】
「……チッ、話にならねェな。ベポ、こいつの熱を計れ。脳までやられてる可能性が高い」
「アイアイ! キャプテン、でも彼女の服……見たことない素材だよ。それに、この『スマホ』? とかいうガラクタも…」
ローは、ベポが拾い上げたいのりの持ち物——画面の割れたスマートフォンを手に取り、無造作に眺めた。
「……見たこともねェ技術(カラクリ)だな。どうやら、お前が嘘をついてるわけじゃなさそうだ」
ローはスマホをベッドに放り投げ、鋭い視線を彼女に向けた。
「お前がどこから来たのかは知らねェが、ここは『偉大なる航路(グランドライン)』だ。お前の知る常識なんて一粒も落ちてねェ。……帰りたがったところで、帰り道すら存在しねェだろうな」
「…………」
「安心しろ。……お前を縛り付けてた連中も、この海までは追ってこれねェ。……ここは、お前がいた場所よりも、ずっとデタラメで自由な場所だ」
突き放すような物言いだったが、いのりにはそれが、これ以上ない救いの言葉に聞こえた。
潜水艦での数日間、いのりはイッカクとベポからこの世界の「常識」を叩き込まれていた。
島ごとに季節が違うこと、海を統べる政府があること、そして何より、自分を縛り付ける「家柄」や「呪い」なんて概念がここには存在しないこと。
「信じられない……。島がまるごと、冬のままなんて」
「あはは、冬島なんて可愛いもんよ。雷が降り注ぐ島だってあるんだから!」
イッカクの明るい笑い声と、ベポの柔らかな毛並みに触れているうちに、いのりの心は少しずつ解けていった。
何より、あの「直哉」がいない。
それだけで、呼吸がこんなにも軽いのだ。
やがて潜水艦は、シャボンディ諸島直前の補給拠点、活気あふれる春島へと停泊した。
「ほら、いのり! いつまでも繋ぎ着てるわけにいかないでしょ。買い物に行くわよ!」
「アイアイ! 可愛い服、たくさん探そう!」
イッカクとベポに両脇を抱えられるようにして上陸したいのりは、街の色彩の鮮やかさに目を丸くした。
「……すごい。みんな、好きな服を着て、笑ってる……」
「当たり前でしょ。さあ、まずはあそこのブティックね!」
店に入るなり、イッカクの目がハンターのように鋭くなり、次々と棚から服を引っ張り出し、いのりの体に当てていく。
