第10章 彼は彼女を取り戻したい 【ONE PIECE ロー】
ローは短く答えると、椅子の背もたれに体重を預け、不敵に口角を上げた。
「この船はこれから『シャボンディ諸島』に向かう。平和な場所じゃねェが、お前を縛る『家』だの『しきたり』だのは、海の上には存在しねェ」
彼は帽子を深く被り直し、椅子に座る。
「気が向いたら、外を見てみろ。空は見えねェが、窓の向こうにはお前がいた場所よりもずっと広い海が広がってる」
「……海?……あの、ここは……どこかの病院、かなんかですか?」
いのりがおずおずと尋ねると、処置室にいたイッカクとベポが顔を見合わせた。
「病院? 違うよ、ここは潜水艦。ハートの海賊団の船の中だよ」
「アイアイ! 海の上……じゃなくて、今は海の中を走ってるんだ!」
「……海賊? 海の中……?」
いのりの困惑した表情に、奥の椅子でふんぞり返っていたローが低く声を出す。
「おい、何を呆けてる。お前、自分がどこの海の出身か言ってみろ」
「え……どこの海? 日本の、京都……というところですが……」
「……『ニホン』? 『キョウト』だ?」
ローは不機嫌そうに眉を寄せた。
「イッカク、海図を確認しろ。そんな島、聞いたことがあるか?」
「いえ……少なくとも、グランドラインの近海にはないですね」
話はそこから、一向に噛み合わなかった。
「お前のいた場所には、どんな王がいる」
「王様……はいませんが、総理大臣なら……」
「大臣だと? 王を置かねェ国か。……じゃあ、海軍の基地はどこにある」
「海軍……? 自衛隊、なら……」
「ジエイタイ?」
ローが訝しげに繰り返す。
「……電伝虫は持ってるか?」
「……虫、ですか? …電話なら、スマホなら」
「……『スマホ』?」
ローは椅子から立ち上がり、いのりの目の前まで歩み寄った。
「いいか。この海には、世界を統べる政府があって、それを守る海軍がいる。海賊が溢れ、島ごとに天候も常識も違う。……お前の言う『ニホン』だの『スマホ』だの、どこのお伽話だ」
「お伽話じゃ、ありません……! 本当に、そういう場所で……」
泣きそうに声を震わせるいのりを見て、ローは短く舌打ちをした。