第10章 彼は彼女を取り戻したい 【ONE PIECE ロー】
「ベポ、お湯と抗生剤、それから消毒液を準備しろ。イッカク、他の野郎共をここから出せ。……この女はしばらく俺が診る」
テキパキと指示を飛ばすローの姿を、いのりは呆然と見つめていた。
禪院家では、自分はただの「道具」だった。
呪力のない落ちこぼれとして、直哉に慰み物にされるだけの存在。
「……どうして、助けるの。私は、大した力もないのに」
掠れた声で問いかけるいのりに、ローは注射器の準備をしながら鼻で笑った。
「力がなきゃ生きてちゃいけねェのか? ここは生きる意志がねェ奴から死んでいく」
彼はそっと彼女の顎を掬い上げ、まっすぐに見つめた。
「お前をこんな目に遭わせた『クソ野郎』が誰かは知らねェが……。俺の船に乗った以上、勝手に死ぬことは許さねェ。分かったか?」
ベポたちが持ってきたぬるま湯で、彼女の身体にこびりついた「直哉の痕跡」は洗い流された。
だが、深く傷ついた粘膜と、精神的なショックは簡単には消えない。
「……シャボンディ諸島まであとわずかだってのに、妙なモンを拾っちまったな」
ローは、処置室のベッドに横たわるいのりを眺めながら独り言ちた。
「ひどい炎症だ。内壁も傷ついてる……。どんな無体を受ければこうなる。お前、どこから来た」
「……ぜん、いん……。京都の、屋敷……」
いのりが口にする言葉は、ローにとって聞き馴染みのないものばかりだった。
だが、彼女が受けてきた「扱い」だけは、医者として、そして一人の男として理解できた。
「……『ゼンイン』か。知らねェ名だが、ロクでもねェ場所なのは確かだな」
ローは枕元に置かれた薬を指差した。
「俺はこの船の船長で、医者だ。今はただの患者として扱ってやる。……お前、名前以外に何か言いたいことはあるか?」
いのりは唇を震わせ、ボロボロになった自分の手を見つめた。
呪力も術式も弱すぎて使い物にならない。
ただの胎として、直哉に犯されるためだけに生きてきた日々。
「……助けて、ほしかった……。もう、あそこには帰りたくない……」
「……そうか」