第7章 潜入捜査官の彼は彼女に助けられる 【名探偵コナン 諸伏景光】
数日後。
潮風の吹く縁側で、景光は小型の通信機を手にしていた。
「……ああ、こちらの状況に変わりはない。組織の動きはどうだ、ゼロ」
『今のところ順調だ。……それにしてもヒロ、お前、なんだか随分と声が明るいじゃないか』
電話の向こうで、降谷が不敵に笑う気配がした。
景光は視線の先で、庭の洗濯物を干しているいのりの姿を眩しそうに見つめる。
「……わかるかい。実は、彼女を正式に妻として迎えることに決めたんだ。……いや、もう娶ったよ。心も体も、すべてね」
一瞬、通信の向こうで絶句するような沈黙が流れた。
『……は? 娶った……? おい、長期休暇中に何をおっ始めているんだお前は!』
「はは、聞こえが悪いな。……でも、彼女じゃなきゃダメなんだ。この島で、いのりを一生守っていくと決めた」
降谷は呆れたような、けれど心底嬉しそうなため息を吐き出した。
『全く……。潜入捜査官が任務先で新婚生活とはな。……まあいい、お前をそこまで変えた女性だ。せいぜい大事にするんだな。おめでとう、ヒロ』
「ありがとう、ゼロ。…… いのりと幸せになるよ」
景光は微笑んで通信を切ると、こちらを振り返って微笑むいのりへと駆け寄った。
季節は巡り、島には穏やかな陽光が降り注いでいた。
縁側に座り、心地よい海風を受けていたいのりは、ふと自分の腹部に手を添えた。
そこには、景光との愛の証が宿っている。
「……ふふ、また動いた」
愛おしさに頬を緩めていると、背後から大きな掌が重なった。
帰宅した景光が、彼女を包み込むように座り、そのお腹に優しく触れたのだ。
「ゼロに報告したら、また『早すぎる』って驚かれるだろうな。……でも、俺は嬉しいよ。この島で、君と、この子と生きていけることが」
「私もです。景光さんに出会えて……あの日、あなたに拾われて、本当に幸せです」
いのりが寄り添うと、景光はその額にそっと口付けを落とした。
禪院という呪縛も、組織という闇も、今の二人には遠い過去の出来事でしかない。
「愛してるよ、いのり。……君も、この子も、俺が一生をかけて守り抜く」
水平線の向こうに沈む夕日が、二人と、新しい命を黄金色に染め上げていく。
絶望の果てに掴んだ幸せは、潮騒の音と共に、これからも永遠に続いていくのだったーー。
