第19章 いつか、また
痛かったけれど、我慢をしていたわけじゃない。
五条さんや恵くん、虎杖くんに野薔薇ちゃん。
大好きなみんなと一緒に浴衣を着て回るお祭りの楽しさが、足の痛みを上回って、私の痛覚を優しく鈍らせてくれていただけだ。
「……これで少しはマシになんだろ」
私の冷えた足首を大きな手で支えながら。
溜息混じりにそう言った恵くんは、指先で丁寧に、絆創膏を私の指の間に貼ってくれた。
それから浴衣の裾に気を配りながら立ち上がり、もう一度 私の隣へと腰を落とす。
「ありがとう、恵くん。……絆創膏、後で返すね」
「要らねぇよ。どうせこうなると思って持ってきてたんだ」
言い方は素っ気ないのに、言葉に乗せられた本心があまりにも優しくて、心臓がきゅうっと甘く締め付けられた。
私が、あるいは誰かがこうなることを予測して、事前に対処してくれていたのだ。
そう思えば思うほど、恵くんの優しさを知れば知るほど、私は恵くんを好きになる。
「………やさしいね」
「はあ?……誰がだよ」
「恵くんしか居ないでしょ」
恵くんが不機嫌にこちらを見ているのが分かる。
普通なら喜んでいい場面なのに、恵くんは自分が優しいという自覚が全くないから、いつもこうして真っ直ぐな褒め言葉を否定しようとする。
その度に私は少し……否、とても、悲しくなってしまう。
「恵くんは、優しい人だよ」
「………」
言い聞かせるように呟いて、隣に腰掛ける恵くんに寄りかかる。
すると恵くんは何か言い返したげに小さく息を吐いたけれど、結局、私を突き放すことはせず、黙って受け入れてくれた。
「………お祭り、楽しかった」
数分の沈黙の後。
遠くの夜店の明かりを眺めながら小さく呟けば、恵くんは「……そうか」とだけ低く呟いて深く目を閉じた。
「またいつか、皆で此処に来たいなぁ」
祈るように、願うように。
独り言のように言葉を吐けば、膝上に添えていた私の手に、恵くんの大きな手が重なった。
「……来年、来ればいいだろ」
「…………うん。また来年、」
絶対に、皆で。
そう心の中で零して、重ねられた手の温もりを感じながら、私はもう一度、恵くんの身体に頭を預けて目を瞑った。