第5章 オーバーライト※
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「……ん、」
重たい瞼を押し上げると、視界いっぱいに白い天井が広がった。
消毒液の匂いと、静まり返った空気。
どうやら恵くんの背中を見送ったあと、私はそのまま眠ってしまったらしい。
目を擦りながらゆっくりと身体を起こし、辺りを見回す。
隣のベッドは空いたままで、室内に人の気配もない。
保健室特有の静けさだけが やけに大きく感じられた。
「………お腹、すいた」
ぽつりと零した途端、ぎゅる、と正直な音が鳴る。
気恥ずかしくなりながらお腹を押さえ、掛け布団から足を抜いた、その時。
──── ガララッ
保健室の扉が開く音。
びくりと身体が跳ね、動きが止まる。
一気に息が詰まり、心臓が嫌な速さで脈打ち始めた。
(……あれ、この感じ、)
背中を冷たいものが伝う。
────前と、同じだ。
半年前も、私はこうして保健室で一人眠っていた。
目を覚まして、扉が開いて──そして、現れたのは……。
(あ、……どうしよう。ちゃんと、忘れてたのに)
一瞬で頭の中を駆け巡る、苦い記憶。
忘れたかった。忘れられたと思っていたはずのそれが、容赦なく意識の表面に浮かび上がってくる。
「……や、…」
声にならない声が喉に引っかかる。
近づいてくる足音が、やけにゆっくりに聞こえた。
床を踏む音ひとつひとつが、胸の奥を叩いてくる。
来ないで。
そう願うように布団を強く握りしめ、身体を固くする。
大丈夫。油断なんかしない。
今日は体調だっていい。
何かされても、私は抵抗できる。
────大丈夫、大丈夫、大丈夫。
何度も、必死に言い聞かせた。
それでも呼吸はどんどん浅くなる。
やがて足音が止まり、パーテーションの向こうに、誰かの影がぼんやりと浮かび上がった。
「…っ」
息が詰まる。
だめ、ちゃんと吸わなきゃ。
力を入れて、逃げる準備を──
───── シャッ
「、飯」
カーテンが開かれる音と、低く、聞き慣れた声。
伏せていた顔を上げると、そこには恵くんが立っていた。