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【桃源暗鬼】有用と無駄〈無陀野無人〉

第2章 傘の内側


離れた手がそのままドアノブにかかる。
この扉の中は――無人さんに触れてもらえない場所。
私の世界が少し、崩れる。
それが良いことなのか、悪いことなのかは、まだわからない。


「白兎月だ。
お前らと一緒に入学したが、色々面倒なことがあり、少し遅れての出席になった」


無人さんが生徒に声をかける。
みんなの視線が一気に私に集まった。
少し怖くなり、無人さんの袖を掴もうとしたが、するりと躱される。
私の行動は、無人さん以外、気付いていなかった。

このくらいで甘えてはいけないという、無人さんの優しさ。
決して厳しさなんかではない。
これ以上の恐怖はたくさんある、嫌と言う程知っている。

拳を握り、力を抜く。
強ばった身体の力さえ抜けた気がした。


「よ、よろしくね…
歳上だけど、中身はみんなと同じだから…」


無人さんの視線が一瞬、私に向いた。


「……月が望むように接してやれ」


固まったみんなは、「月…」と呟いていた。
もしかして、無人さんはみんなのことを名前で呼んでいるわけではない?

ほんの少し緊張が解れて、優越感に浸る。
私は、無人さんの"特別"…ならいいな。


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