第12章 傷と夜空
紅海の容態は、ようやく安静に向かっているという
自室で数日、療養して復帰するらしい
七海は見舞いとして、放課後に紅海の部屋を訪れた
ノックをすると『鍵、空いてるよ』と返事が有る
不用心とは思ったが
きっと、自分の他にも来客が有るからだろう
カーテン越しの光は柔らかく、
先程まで、寝ていたのか
ベッドからゆっくりと紅海は身体を起こしている
医務室の時よりも少しだけ血色が戻っている
それでも、無理をした痕跡は隠しきれていなかった
七海が声を掛ける前に、紅海がこちらを見て微かに笑った
『七海…ごめんね…灰原の事、辛かったね』
開口一番、それだった
七海は、一瞬言葉を失う。
謝られる理由が、どこにも見当たらない
「…流鏑馬さん」
声はゆっくり、静かだった
「あなたは、何も悪くありません」
任務の判断ミス
呪霊の格付け違い
それは珍しい話ではない
現場に出る以上、誰にでも起こり得る
それが呪術師という仕事だ
「灰原は…」
そこで、七海は一度静かになる
頭の中で、言葉の選択肢が幾つも浮かぶ
喉の奥がジリジリとした空気を吸う
「灰原なら、きっと、こう言います」
確かな声で
「『大丈夫です、紅海先輩。笑って乗り越えましょう』と」
紅海の瞳が、揺れた
「…あいつは、そういう男です」
明るくて、前向きなバカで
どんな状況でも、誰かを気遣うことを忘れない
だからこそ、七海は続ける
「彼がいなくなった事は、取り返しがつきません
ですが……あなたが、自分を責める理由にはならない」
沈黙が落ちる
窓の外から、遠くで鳥の鳴く声が聞こえた
紅海は、ゆっくりと目を伏せる
『ありがとう、七海…ごめんね』
その声は、まだ弱々しい
けれど、先ほどよりも、少しだけ軽くなっていた
七海は、それで十分だと思った
それだけで、今はいい
七海は静かに椅子から立ち上がる
扉の前に来た時に紅海が声をかける
『七海、もし何もなかったらさ
明日も来てくれる?話し相手になってよ』
こくりと頷き七海は部屋を後にする
慰めきれるわけでも、救えるわけでもない
自分だって、まだ、立ち直ったわけではない
ただ、同じ痛みを知っている者同士、隣にいる