第47章 片道と寄り道
「じゃあ、さっきまでの紅海は何だったんだろうね?」
『えー?ちゃんと覚えてるよ?』
「ほんとに?」
『ほんと!』
五条は横目で紅海を見た
頬の赤みは、まだ少し残っている
けれど、足取りはしっかりしていたし、言葉もさっきよりはっきりしていた
「じゃあ、僕のお好み焼き一口取ったのも覚えてる?」
『それ、悟が私のを取ったんでしょ!』
「えー、そうだっけ?」
『そうだよ!』
「そっかそっか」
まるで反省していない
紅海は頬を膨らませたが、すぐに笑ってしまった
『もう、悟ってば』
五条も笑う
その声を聞いていると、先ほどまで胸の奥に残っていた苛立ちが、少しずつ遠のいていくようだった
五条家の将来
縁談
身を固める
耳に残った言葉を、五条は頭の隅へ押しやった
今は、考えたくなかった
隣には紅海と何でもない話をしながら帰っている
それだけのことが、妙に心地よかった
『……悟?』
「んー?」
『なんか、疲れてる?』
五条は彼女を見た
紅海は、心配そうに眉を下げている
さっきの電話の内容など知るはずもないのに、いつもと違う何かを感じ取ったのだろうか
五条は、ほんの一瞬だけ考えてから笑った
「んー…ちょっと面倒な電話だっただけ」
『そっか』
紅海はそれ以上、尋ねなかった
事情を聞き出そうとも、無理に励まそうともしない
ただ、隣を歩いている
『帰ったら、お水飲んで寝るね』
「うん、そうして」
『悟も、ちゃんと寝てね?』
「僕は子どもじゃないんだけど」
『知ってるよ?』
「じゃあ、心配しなくてもよくない?」
『心配くらいするよ』
あまりにも自然に言われて、五条は一瞬、言葉を失った
紅海は気にした様子もなく、前を向いて歩いている
五条は小さく笑った
「……そっか」
『うん』
「じゃあ、紅海もちゃんと寝ることね?」
『は~い』
返事は素直だった
今度は、さっきのように酔ってふにゃふにゃした声ではない
五条はその声を聞きながら、夜道を歩いた