第46章 秋の香りと想い
『遊佐くん』
「なに?紅海ちゃん」
『お好み焼き、食べてる?』
「食べてますよ」
『よかったぁ』
紅海は、安心したように微笑んだ
――あかん
遊佐は心の中で、もう一度だけ呻いた
――酔うたら、余計に無防備になるんよなぁ
普段から人を疑うことが苦手な彼女だが、酔いが回ると、警戒心が薄れるというより、嬉しい気持ちをそのまま表に出すようになる
それが、また……
「……紅海ちゃん」
『ん?』
「お水、もう少し飲んでくださいね」
『はぁい』
遊佐が差し出した水を、紅海は両手で受け取った
『ありがとう、遊佐くん』
「……どういたしまして」
遊佐は、平静を装ってビールを飲んだ
その向かいで、五条がこちらを見ている
目が合うと、五条は口元だけで笑った
遊佐は目を逸らした
今は、張り合っている場合ではない
紅海が楽しく過ごして、無事に帰れることが一番だ
そう自分に言い聞かせながら、遊佐は彼女のグラスが空になっていないか、さりげなく気を配った
そして…飲み会から2時間半は過ぎであろう
時計は丁度21時半頃
遊佐は名残惜しそうに、次の日は仕事があるからと30分前にタクシーで帰っていた
店を出る頃には、紅海はすっかり上機嫌だった
足取りが危ういほどではない
けれど、いつもより歩く速度が遅く、五条が少し先へ行くと、すぐに声をかける
『悟ー』
「ん?」
『待ってぇ』
「待ってるよ…ほら、こっち」
五条が歩幅を緩める
紅海は隣に並ぶと、満足そうに笑った
『えへへ』
「……何?」
『なんでもない』
「ふーん?」
五条は、少しだけ首を傾げた
酔った紅海は、普段より素直だ
楽しかったことも、嬉しかったことも、隠さずに口にする
その一方で、本人は自分がどれほど酔っているのか、あまり分かっていないらしい