第46章 秋の香りと想い
遊佐はシートベルトを締めながら、伊地知の後ろから声をかけた
「伊地知さん…任務帰りやのに、すみません」
「いえ!仕事ですから…お気になさらず
それに、皆さんが無事に文化祭を楽しめたなら、何よりです」
「そう言ってもらえると助かります」
遊佐の声には、からかいの色がない
伊地知もようやく少し落ち着いたようだった
そのとき、助手席の紅海が運転中の伊地知へ顔を向けた
『お好み焼きにしようって言ってたんだけどね、イッチー、どこか美味しいところ知ってる?』
声が弾んでいる
「えっ、お好み焼きですか?そうですね…」
伊地知が記憶をたどるように考え込む
「以前、補助監督の同僚に教えていただいたお店があるんですが…」
「ほんと?行ってみたい!」
「では、そちらにしましょうか?そこなら駐車場も近くに有りましたし…皆さんのお口に合うかは分かりませんが……」
「いいじゃん、行こうよ、伊地知のおすすめなら間違いないでしょ?美味しければ何処でも良いよ?」
五条が後ろから口を挟んだ
「…あなたは本当に」
七海が言いかけて、やめた
どうせ最後まで言っても、五条には響かない
その判断は、長年の付き合いから来るものだった
『じゃあ、決まりだね!』
紅海が嬉しそうに笑う
五条はその横顔を眺め、口元を緩めた
「紅海、さっきから食べることしか考えてなくない?」
『え?だって、お好み焼きだよ?』
「うん、知ってる」
『美味しいものを食べるのって、幸せじゃない?』
「……まあ、そうだね」
あっさり肯定した五条に、紅海が満足そうに頷く
『お好み焼き食べなさすぎて、そろそろ白い粉を摂取しないと禁断症状が出るところだったよ』
「ぶっ!!」
五条は吹き出す
「紅海ちゃん、それ怪しい薬みたいになっとるで!」
代わりに、隣の遊佐へ視線を向ける
「またまた、由布湯…紅海のこういうとこ好きなくせにー!」
「五条さんは、ほんま余計なことを言いますね!」
「え、図星?」
「ノーコメントです!」
「何それ?」
五条が楽しそうに笑う
紅海は、また悟が冗談言ってるなぁと気にしておらず…
遊佐は呆れたように前を向き、七海は小さく息を吐いた
「騒がしいですね」
五条はまったく気にした様子もなく、背もたれに体を預けた
窓の外には、夕暮れの街が流れていく