第45章 文化祭とオムライス
「でも、紅海さ、お触りは禁止にしろよ?」
五条は、ボウルを手に取りながら何気ない調子で言った
『え?触られてたっけ?』
紅海はきょとんと首を傾げる
本気で覚えていないのか気にしてないのか
五条は一瞬だけ手を止め、それから小さく息を吐いた
「……紅海」
『なに?』
「さっきのお客さん…紅海の腕、掴んでたでしょ」
『あ!あれ?』
紅海はようやく思い出したように手を打った
『うん、なんか、こうやって動かしてくれたよね』
自分の両手を動かし、先ほどの仕草を再現する
『あれ、振り付けを教えてくれたんじゃないの?』
「……」
五条は、何とも言えない顔で紅海を見た
「いや、まあ……教えてくれたんだろうけどさ」
『?』
「君のそういうとこ……ほんと危機感なさすぎるからねぇ」
苦笑しながら、卵をボウルに割り入れる
卵を溶く泡立て器を動かす手には、ほんの少しだけ力がこもっていた
『ええ? だって、別に嫌なことされたわけじゃないし…』
「嫌かどうかの話じゃないの」
『そうなの?』
「そうなの」
即答だった
紅海はますます分からないという顔をする
『でも、あの人、いい人だったよ?
文化祭に来てよかったって言ってくれたし』
「うんうん…よかったねぇ」
五条は気の無い声色で、にこやかに相槌を打った
『なんか、悟、ちょっと怒ってる?』
「怒ってないよ?」
『ほんと?』
「ほんとほんと」
あまりにも軽い返事だった
そのやり取りを、隣でパンケーキの生地を混ぜていた伏黒が聞いていた
「…五条先生」
「んー?」
「流鏑馬先生、人の悪意に鈍いから気付いてないですよ…」
「まぁ、それが紅海の良い所なんだけどねぇ」
『なんか、二人でこそこそ話してる…』
口を尖らせる紅海
虎杖が、こらえきれずに吹き出した
「ははっ! 先生、紅海先生のこと心配なんだ?」
「悠仁、次のオムライス三つね」
「話そらした!」
「はい、手を動かす!」
「はーい!」
虎杖は笑いながら、慌てて注文票を確認する