第45章 文化祭とオムライス
『でもね、実は楽しいよ…生徒達とこうやって文化祭するの』
こそこそっと、顔を近づけて話してくる
近い…近すぎる!
「そら何よりや」
『遊佐くん、入ってく?』
「そやなぁ、他にも見て回ろうと思っとるし、最後に寄せて貰おかな」
『そっか』
紅海がまた笑う
遊佐はその顔を見て、危うく口を開きかける
可愛い…やっぱり、言いたい
でも、変に声が上ずりそうや
「……ほな、また」
『うん、またね』
遊佐は、そのまま教室を離れた
角を曲がる
数歩…
「…………」
足が止まった
「……何してんねん、俺」
壁に手をつく
「普通に褒めたらええやろ……」
紅海はきっと、ただ「似合ってる」と言ってもらえれば、それだけで嬉しそうに笑ったはずだ
いつもなら、そうしている
なのに今日は、妙なところで慎重になった
「……いや」
眼鏡を押し上げる。
「ほんまに、似合ってたからな……」
結局、もう一度戻ることにした
言わないと後悔するような気がしたから
教室の前まで戻ると、ちょうど紅海が廊下へ出てきた
『あれ?』
「……紅海ちゃん」
『どうしたの? 忘れ物?』
「いや忘れ物っちゅうか」
遊佐は一瞬だけ迷った
それから、今度はちゃんと彼女を見る
「さっき言い忘れた」
『?』
「……似合ってるよ?そのメイド服」
紅海が目を丸くする
『ほんと?』
「うん」
『ありがとう…』
ぱっと笑う
遊佐は、彼女の笑顔見て小さく息を吐いた
やっぱり言うて良かった
「ほな、今度こそ行ってくるわ」
『うん、またね?』
遊佐が再び歩き出した、そのとき
「由布湯」
後ろから声がした
「……五条さん」
振り返ると、五条が “ようこそメイドカフェ” と言う看板を持って
廊下の向こうから歩いてくる
「さっき、一回通り過ぎて、戻ってきたよね?」
「……見てたんですか」
「見てた」
五条は悪びれもせず笑う
「紅海、可愛かったから二度見?」
遊佐は一瞬だけ黙った
「……ええ…まぁ、そんなもんです」
「素直なやつ」