第44章 おいでとさぼり
それから、数日後
浅葱は紅海に稽古をつけようと決心した
きっかけは、あの外出した日だった
小さな呪霊に呼ばれて、何も知らずに近づいて
もう少しで、殺される所だった…
どこかの少年が助けてくれたと言っていたが
もし、助けが来なかったら…
そう考えると、浅葱は今でも胸の奥が冷たくなる
「紅海」
『はい』
「今日から、少し稽古をしよう」
『お稽古?』
「そう」
浅葱は紅海の前に立った
「呪霊から、自分の身を守れるようにするためだよ」
『……うん』
「別に、呪術師になれって言ってるんじゃない」
紅海は瞬きをする
呪術師…確か、お祖母ちゃんみたいに呪霊を祓う仕事の人
お母さんもそうだった…
「これから先、あんたが何になりたいと思うかは、あんたが決めればいい」
『……』
「普通の子として暮らしたいなら、それでもいい」
浅葱は紅海の頭を撫でる
「ただね」
その手が、そっと髪を整える
「自分を守る力だけは、持っていてほしいんだ」
『うん……分かった』
紅海は頷いた
最初の稽古は、思っていたよりずっと厳しかった
「もう一度」
『……はい』
「構えが崩れてるよ」
『はい!』
「足を止めない」
『はい』
「紅海、今のじゃ呪霊に食われるよ」
『……はい』
浅葱は、子供だからと言って手を抜かなかった
まだ何も知らないからと言う理由で甘くすることはない
もちろん、無茶をさせはしない
けれど…教えるべきことについては、妥協しなかった
「もう一回」
『……はい!』
紅海は何度でも立ち上がった
転んでも
失敗しても
うまくできなくても
泣かなかった
足が痛くなっても
腕が震えても
『……もう一回、頑張る!』
そう言って構える
浅葱は、そのたびに紅海の様子を気にした
「…あんた…まだやるのかい?」
『うん』
「疲れただろう?」
『……うん』
「だったら、もう今日は終わりにしてもいいんだよ」
紅海は少し考えて、それから、小さく首を横に振る
『おばあちゃんが、教えてくれてるから』
「……」
『ちゃんと、できるようになりたい』
浅葱は紅海の前に立ち、その気持ちに応えることにした