第44章 おいでとさぼり
「しょうがない」
椅子から立ち上がる
「帰ってやるか」
紅海が顔を上げた
『もう帰るの?』
「まぁね」
悟はゲーム機を見る
「これだけ遊べば、座学の時間も潰れたはずだし」
『座学……?』
「勉強」
『嫌いって言ってたもんね?』
紅海は少しだけ笑った
「じゃあな」
少年は軽く手を上げて挨拶をすると大人達と去っていく
『ばいばい!』
一生懸命、手を振って
少年がいなくなると…
ふと、胸の奥が、きゅっとした
『………』
おばあちゃん…
紅海は、そこでようやく思い出した
自分は、待っているように言われていたのに
浅葱は、すぐ戻ると言っていた
なのに、ゲームが楽しくて夢中になってしまい、すっかり忘れていた
『……おばあちゃん』
もしかしたら、もう戻ってきているかもしれない
自分がいないことに気づいて、探しているかもしれない
そう思った瞬間…さっきまで楽しかった気持ちが、少しずつしぼんでいく
『……どうしよう』
紅海の顔が曇った
浅葱は、きっと心配している…迎えに来たのに、自分がいなかったら…
そう考えると、胸が苦しくなってきた
『わ、わたしも帰ろ……』
紅海は慌てて椅子から降りた
二人の出会いは、それだけだった
名前も聞かなかったし、また会おう、とも言わなかった
紅海にとっては、早く浅葱のところへ戻らなければ、という気持ちでいっぱいだった
ゲームセンターを出ると、さっきまで一緒に遊んでいた少年は、もう見えない
おばあちゃん、怒ってるかな
ちゃんと待っててって言われたのに。
小さな足が、少しだけ速くなる
紅海は、浅葱の待つ場所へ向かって走り出した