第43章 付添いと弁当
硝子がそれを見て、ぼそっと言った
「図星?」
『ち、違うよ!』
「じゃあ何?」
『……』
紅海は黙った
五条が面白そうに顔を覗き込む
「何、その顔」
『……』
「タコ?」
『違うよ!』
思わず声が大きくなる
夏油が吹き出した
「悟、君は本当に紅海をからかうのが好きだね」
「別に」
五条は笑いながら言った
けれど、紅海が本当に一年生の前に立つことを考えると、さっきから妙に落ち着かない
自分なら、あの二人を連れていくくらい、別に難しくない
それなのに夜蛾は紅海を選んだ
「……俺もついていってやろうか?」
五条が言った
紅海が振り向く
『え?』
「だから演習場」
『一緒に来てくれるの?』
「うん、俺がいれば楽勝だろ?」
五条は軽く肩をすくめる
紅海は少し考えてから、首を横に振った
『ありがと、でも大丈夫だよ』
「……なんで?」
『だって、夜蛾先生が私に任せてくれたんだもん』
あっさりした答えだった
五条は一瞬、黙る
紅海は気づいていない
自分が今、五条の助けを断ったことにも
その言葉が、妙に真っ直ぐ五条の胸に引っかかる
「そ?好きにすれば?」
五条は雑誌を机に放った
『うん、ありがと』
紅海は笑った
夏油は何も言わずに小さく笑う
夜蛾が紅海を選んだ理由は、たぶん単純なものではない
紅海は、必要以上に後輩を守ろうとはしない
けれど、危険になれば迷わず前に出る
相手が自分より弱いからといって、最初から全部奪うように戦うこともしない
見て、考えて、必要になった時だけ手を出す
――教える側としては、それが一番大事なのかもしれない
『明日、朝から夕方までかぁ』
紅海が確認する
「長いね~」
硝子が答える
『うん…』
紅海は少しだけ不安そうに笑った
次の日
早朝…まだ山の空気に冷たさが残っている
校舎裏にある山道を、紅海と一年生たちが歩いていた
先頭を歩くのは夜蛾
その少し後ろに、紅海
そして七海と灰原が並んで続いている
山道は舗装されていない
木々の間から差し込む朝日がまだらに地面を照らし、足元には昨夜の雨で湿った土が残っていた
灰原は辺りを見回しながら、少しだけ落ち着かない様子で口を開く
「結構、山の中ですね」