第40章 母と姉
朝の神社は、縁側には薄い日差しが入り
鳥のさえずり…風に揺れる木の葉
台所からは、朝餉の支度をする音が聞こえていた
紅海は、昨日の夜、泣いていたことなど何もなかったみたいに、いつもの調子だ
浅葱の手伝いをしながら、へにゃっと笑っている
「紅海、それ取っておくれ」
『はーい』
「そっちは後でいいから、先にこっちを―」
『あ、これ?』
「そうそう」
紅海が笑いながら動く
五条は、少し離れたところからその様子を眺めていた
顔色も悪くないし、声もいつも通り
目元だけはほんの少し、腫れている気がする
昨夜のことを知らなければ
気づかない程度の変化だ
五条は、目を伏せる
昨夜、縁側で眠っていた紅海は、きっと泣いていた
眠った紅海に『悟』と呼ばれた時、この子を安心させてやりたいと思った
「……」
五条は考えるのをやめた
今は目の前で笑っている紅海を見ていればいい
「ねえ、紅海、昨日、何時くらいに寝たの?」
『え?』
紅海が少し考える
「昨日の夜、何時に部屋行った?」
『えーっと…』
紅海は首を傾げた
「多分、23時くらい?」
「ふーん」
『たぶんだけどね?』
紅海は何気なく答えて、ふと眉を寄せた
『…あれ?ちゃんと部屋行った?』
五条の眉が、ほんの少しだけ上がる
「覚えてないの?」
『うん……』
紅海は首を傾げた
『…23時くらいまでは縁側にいた気がする…それから…』
そこから先の記憶が曖昧
『…あれ?』
昨夜…確かに、縁側に座った
夜風が冷たくて庭を見ていた
それから…紅海の表情が少しずつ変わる
『…私、布団まで行った記憶がない』
「だろうね」
あまりにも自然に返されて
紅海が五条を見る
五条は、何でもないような顔をしていた
「昨日、僕が寝かせたからさ」
『…え…』
紅海の動きが止まる
「縁側で膝かかえて寝てたよ」
『…え?…えぇーーっ!?』
紅海の声が神社に響く
浅葱が振り返る
「どうしたんだい?」
『お、おばあちゃん…!』
紅海が五条を見る
顔が一気に赤くなる。
『悟!悟が!!』
「何だい?」
『私、昨日…縁側で寝て』
「ったく、あんたは…」