第44章 オートマータ
10分ほどで優里が出てきた。『2万5千円だったよ』と亜希子に目配せをしながらこそっと言った。亜希子も入り、やはり10分ほどで出てくる。いよいよ私の番だ。
カーテンをくぐると、先ほどと同じところにユメノが座っていた。黒いクロスのかかった小さな机の上に、一組の細長いカードの束が置いてある。先程はなかったものだ。
「お客様も夢のご購入でよろしいですか?」
問われて、一瞬躊躇する。ポルノのような夢、という言葉が頭に蘇る。
私はおそらく同年代の人よりも性体験は著しく少ない方だと思う。家庭が厳しかったのもあるけれども、性格的に男性とのお付き合いを積極的にする方でもなかった。彼氏がいたこともなく、今の夫とは、両親があつらえたお見合いで結婚した。性体験は今の夫とだけしかしたことがない。
アダルトビデオやポルノなどの存在は知っているが、これまでそういったものに触れる機会がなかった。
「いかがいたしますか?」
ユメノがじっと私の目を見つめてくる。光の加減なのか、その目はどこまでも深い夜の闇のように見える。
さっきの・・・目だ。
その目を見ていると、だんだん妙な気持ちになってきた。胸の中がざわめくというか、普段あまり感じたことがないゾクリとした不思議な感覚を覚えた。
そして、まるで魔法にかかったように、私はこくりと頷いていた。
ユメノが売っている夢の説明をする。彼女が言うには、夢はいわゆる『淫夢』であること。内容は選ぶことはできないこと。そして、万が一夢が気に入らなくても返金はできないこと、などだった。
言われるがままに2万5千円を支払うと、ユメノが机の上にあったカードを美しい手つきでスプレッドしてみせた。カードに描かれている図案は、タロットカードに似ているが、数字や文字などは描かれていなかった。そして、例えば立った男性の性器を跪いた女性が口に含んでいる様子を描いたカードなど、私の目から見ても性的な行為を示唆している、と思われるようなカードもあれば、中東の踊り子のような服装をした女性が男性の前でダンスをしている、といったような直接的に性を示唆していないようなカードもあった。