ぐうたらの私が異世界で帽子屋(マッドハッター)になる
第14章 第十四話
甘い痺れを感じながら、深い眠りに落ちていた。
そんな夜分。
…あの気配がした。今までないくらい強烈な気配。
私は飛び起きて、辺りを見回した。
隣では、静かに寝息を立てているユラくん。
気づくと、レースのカーテンが揺れていた。
(窓、私開けたかな…)
窓を閉めようと近づくと、バルコニーには何者かが立っていた。
あの異様な気配、金の瞳、銀の髪。
「あなたは…」
金の眼の男。
そうだ、そうにちがいない。
「お姫様、お迎えに上がりました」
そう言って、金眼の男はうやうやしく一礼した。
「お迎え?私は帰れるの?」
泣き出したかった。でも、どうしてもいろんなことを聞かないとと思った。
「いいえ、残念ながら、貴女はこの世界の外にはもう出られません。私と入れ違いでこの世界の住人になったからです」
そう言って、彼は私のそばに来て、手の甲にキスをした。
「入れ違い?どういうこと??」
「私の役目を貴女に移したのです。そして私は、あちらの世界の住人として生きています」
「そんな、どうして??ひどいよ!!帰してよ、私の居場所!!」
金眼の男の腕を強くつかんで揺すると、彼は少し困った表情をした。
「それはもう不可能です。向こうの世界に、私の恋人もいますので」
「そんな…勝手なこと...皆勝手だよ...」
私は両手で顔を覆った。
私の居場所、ここしかないの?
最後の希望を失って、私は絶望的な気持ちになった。
「…ですが。…私も貴女にこのような暮らしをさせることは本望ではありません。もしもここから逃げたいのなら、お手伝いします」
「……」
ここから、逃げられる?
そう思ったその時、私たちの周りにいくつもの氷の柱が隆起してきた。
「…誰だ!!その人から離れろ!」
物音を聞きつけたユラくんが、ベッドから魔法を使ったようだ。
だめだ、悩んでいる時間はない。
「お願い、私を連れて行って…!」
「もちろんです、お姫様」
そう言うと、ユラくんに不気味な微笑みを残して、私を抱えて夜の闇の中へ消えた。