第10章 参の社
「先触れを頂きまして万事整えてお待ち致しておりました」
随神門の内に白衣に緋袴の巫女が3人、寒風に嬲られるまま奉納者を待っていた。
何れも長い髪を靡かせ、白過ぎて青いような顔をしているのは寒さのせいか、元より色素の薄いせいか。
対する小枯の陽に焼けた肌がむしろ好ましく温かげに見える。
「小枯様はこちらへ。壱の権宮司様と訪い客様はこちらへ」
巫女2人が小枯を誘い、1人が鬼鮫と霜刃を目顔で招く。
霜刃が目を細めた。眉間に細く長い皺が寄っている。
「こいつは入れぬ」
「宮司の思し召しです。否やは御座いません」
「小枯共々還魂の式礼をする」
「必要御座いません。宮司がその様に取り仕切りました故」
「ー成る程」
霜刃がすっと薄い唇を引き上げて笑んだ。
小枯を見、鬼鮫を見る。
鬼鮫は眉を上げて見返し、小枯は見返さず中心に立つ巫女を見た。
「宮司の如何な思し召しによる采配か」
「其は宮司より聞し召し下さいませ」
「ならばその折のあると承知して良しか」
「如何様にも」
そう言って微笑んだ巫女に小枯が薄く笑い返した。
霜刃に似た、捉えどころのない不穏な笑み。
「如何様にもとは宮司も異なことを仰せ有る。還魂の不要であれば奉納は取り止める迄。式礼を排される謂れは無い」
「宮司にお話下さいませ。吾にいらえる分は御座いませぬ」
「その折があるかと尋ね居る」
「ではあるといらえましょう」
「承知した」
薄く笑ったまま、小枯が霜刃を、鬼鮫を見た。
ー嵌められた。
その目色。
宮司はただ安穏と捧げ物を待ち構えていたのではない。
霜刃は小枯に頷き、鬼鮫を促した。
「歩め。行く」
鬼鮫は小枯を見て、その目に揺れのないことを見てとって頷いた。
「ーではまた後で」
低く言えば、小枯がふと温かく笑った。ほんの刹那の猫柳の笑み。
そのまま小枯はふたりの巫女に従って鬼鮫と霜刃に背を向けた。
すっと背筋の伸びたその腰元で、括り髪がゆるやかに揺れる。千歳緑に囲まれた社の雪催いの中、赤い括り紐が巫女らの緋袴の赤と相俟って美しい。美しいが、背が冷える。
朱い社に向かう小枯から目を離せず、鬼鮫は眉根を寄せた。
これでいいのか?
逡巡して、霜刃の視線に気付く。
そこに憐れみのような色を見て鬼鮫はすっと息を吸った。