第16章 Drastic medicine(緑谷出久 ホークス)
言葉に詰まった僕を見て、ホークスは「忘れていいよ」と言った。
「時々、あるんだ。もういいやって思いながらもしかしたら……って思う時。……バカだよね、ある筈なんてないのにさ」
「……ホークス」
「あ、ほら、歳取ると病気の治り、遅くなるでしょ?それと一緒かなって思ってさ……失恋で引きずる時間も長くなんのかなって」
若いって治りが早くていいね、とまた困ったように笑ったホークスを見て僕は更に何を言えばいいのか分からなくなってしまった。
励ますのもなんだか上からっぽくておかしいし、「そうですよね、僕もです!」と言うのもそれは違う。
僕が考えあぐねていると、ポンポンと背中を叩かれた。
「そんな顔しないでよ、緑谷くん……いや、俺の所為だよね、ごめん」
「いえ……すみません……」
「じゃ、俺行くね」
「……はい」
職員室の出入り口の前で立ち止まったホークスが、僕の方を振り返った。
「……緑谷くん」
「はい」
「またいつか、お茶しよっか」
そう言って、漸くいつもの表情に戻ったホークス。
「僕、男ですけどそれでもよければ!」
僕も、いつもの表情が出来ているだろうかと不安になりながらそう答えた。
「はは、何それ!まぁいいや、じゃ」
小さく僕に手を振ったホークスは、丁度職員室の前を通りがかったオールマイトに会釈をすると並んで歩いて行った。
「……はぁ……」
僕は、椅子に座り直すと温くなったコーヒーを口に流し込んだ。
『俺達って、あの子にとって何だったんだろうね』
ホークスの言葉を、思い出す。
本当に、何だったんだろう。
だけど。
繭莉が僕もそうするようにたまに、僕らの事を思い出してくれたら、それでいいんじゃないかと思う。
そうしたら、あの時間もただの無駄な時間じゃなかったと思える。
こんなの、自分を励ますための言い訳に過ぎないけど。
「ん……午後も頑張るか……!」
僕は、大きく伸びをしてまたコーヒーカップに口を付けた。
その感触に、繭莉とした一度だけのキスを思い出しながら。
END