第68章 偽りの日々〜冨岡義勇 時透無一郎
義勇が去り、静まり返った室内。
無一郎は、扉の横の椅子に座り直すこともせず、ただ立ち尽くしたままゆきを見つめていた。
一ヶ月
自分は指一本触れることも許されず、怖がる君を遠くから見守ってきたのに
それなのに、さっきの光景は何?
目の前のゆきは、冨岡さんの腕の中で大人しく身を委ねていた
「ねぇ、どうして?」
無一郎の声は、いつもより低く怒りと悲しみが混じったように聞こえる。
「どうして、冨岡さんならいいの? 僕は…あんなに拒絶されたのに。僕が近づくと、君はあんなに震えるのに。何が違うの? 理由を教えてよ?」
一歩、無一郎が近づいてくる。
それは、あの日以来守っていた境界線を越える一歩だった。
「僕がどれだけ我慢してるか、君は知らないでしょ?毎日、すぐ隣にいたいのに、触れたいのに…君が怖がるから、僕はそこに座ってるだけ。なのに、冨岡さんには抱きしめられて平気なんだ?」
ゆきの肩がびくりと震え、後退りする。
その怯えた視線が、無一郎をまた刺激する。
けれど、理由がわからない無一郎にとって、その拒絶は嫌われていると理解するしかなかった。
「もう、嫌だよ。わけがわからない…冨岡さんを好きになった?」
無一郎は一気に距離を詰めると、逃げようとするゆきの手首を掴み、そのままベッドへと押し倒した。
「 やめて…!」
ゆきの目に涙が浮かび、がガタガタと震え始めた。
無一郎はその震えを感じながらも、掴んだ手首を離さない。
「何が、やめてなの? 冨岡さんには言わないのに? 僕だって男だよ。好きな子に一ヶ月も放置されて、他の男と仲良くしてるのを目の前で見せつけられて…これ以上、優しくなんてできない!」
無一郎の目が涙で潤む。
一ヶ月間、我慢していた体温…。
無一郎はそのまま、震えるゆきの耳元で「ねぇ、ゆき。これ以上、僕を拒絶するなら…もう怖がってもやめない…」と告げた
無一郎の顔がゆっくりと近づき、無一郎の唇が、ゆきの震える唇に今にも触れようとした。
嫌だ…怖い…思い出すあの日を…私が汚れた日を
あの山賊達の感触を…
あの痛さを…目の前にいるのは無一郎くんなのに…身体が拒絶する…
体にあの日の痛みが蘇る…受け入れたいのに…