第68章 偽りの日々〜冨岡義勇 時透無一郎
しのぶは、義勇の腕の中で震えるゆきを、冷めた視線でじっと見つめていた。
「本当のことを言って何が悪いんですか? 冨岡さん、あなたはこの子のその目に、騙されているんですよ。そんな風に甘やかすから、図に乗るんです」
しのぶは一歩近づき、ゆきの顔を覗き込むようにして冷たく笑いかけた…。
「時透くんという婚約者がいながら、不死川さんには潤んだ目で兄と慕い、冨岡さんの前ではこうして浴衣を乱して、無垢な振りをしながら肌を晒す…。あなたはそうやって、意識せずとも男の独占欲を駆り立てる真似をしている。その行動が、男たちを勘違いさせるのですよ。山賊に襲われたのだって、あなたが隙だらけで誘っているように見えたからでしょう?まさに自業自得です」
「いい加減にしろ、胡蝶!それはお前の勝手な思い込みだ!せっかく良くなってきていたのに…やめてくれ!」
義勇が激怒し、なおもゆきの耳を塞ぐように強く抱き寄せるが、その守ろうとする仕草さえ、しのぶにはゆきが仕組んだ計算のように見えて不愉快だった。
「冨岡さんの稽古が甘いのも、あなたがそうやって弱々しく、守ってあげたくなるような女を、演じているからでしょう? だから、鬼でもないただの人間相手に、なす術もなく汚されるんです。あなたが弱いのは、男の情けを引くことばかりに長けている、その卑しい根性のせいですよ。そんな泥まみれの体で、よくもまあ清らかなふりをして冨岡さんに抱き締めてもらえますね?」
「胡蝶!!いい加減にしろと言っている!」
義勇は震えるゆきをもっと強く、その大きな手で自身の胸の中へと強く引き寄せた。
「こいつが、自分から傷つくような真似をするはずがない。お前の言葉は、理不尽な憶測に過ぎない!」
「憶測? 彼女のこの乱れた姿を見て、まだそんなことが言えるなんて…冨岡さんにも驚くばかりです。」
「黙れ。これ以上ゆきを侮辱するなら、俺が相手になる。大丈夫だ、ゆき。お前は何も悪くない。」
義勇が優しく語りかけ、ゆきの顔を覗き込もうとした…。
けれど、ゆきは強く目を閉じて、義勇の胸に顔を埋めたまま動かない。
もはやゆきは、義勇の顔さえ見ようとはしなかった。
ただ、ただ体を震わせるだけだった…。