第112章 言えない〜時透無一郎 冨岡義勇【R強強】
部屋へ戻ると、静かな夜の空気が満ちていた。
二人は火照った体を休めながら、互いに少し距離を置き座った。
無一郎は手拭いを手に取ると、くしゃくしゃと雑に自分の長い髪を拭き始めた。
少し乱暴なその手つきを見かねたゆきは、そっと無一郎の背後に回り込み、その手から手拭いを優しく抜き取る。
「えっ?ゆき…!?自分でするからいいよ」
突然のことに驚き、無一郎が振り向こうとするのをゆきは優しく制した。
「だめ。ちゃんと乾かさないと冷えちゃうでしょ?私が拭いてあげる」
手拭越しに頭部を柔らかく包み込み、丁寧に水気を吸い取っていく。
指先が頭皮に触れ、髪を優しく撫で上げる感触があまりにも心地よく、無一郎は抵抗するのをやめてそっと目を閉じた。
先ほどまでの激しい情事が嘘のように、穏やかな愛おしさが胸を満たしていく。
「…あっちではね、毎日のように鬼を斬っていたんだ。最近は少し数が減って様子を見ている段階なんだけど…」
無一郎はゆきの温もりに身を委ねながら、静かな声で言葉を続ける。
遠く離れた場所での孤独や、すれ違う日々に募らせていた不安。
そのすべてを吐き出すように深く息を吐いた。
「こうして君が髪に触れていてくれるだけで、溜まっていた疲れなんて全部どこかへ飛んでいっちゃうよ…」
そう言って無一郎は後ろへ倒れ込むように、ゆきの膝の上に頭を乗せた。
仰向けになった瞳が、ゆきの顔をまっすぐに見つめ返す。
その表情には先ほどのような熱っぽい感情はなく、甘えるような柔らかさが戻っていた。
「さっきは本当にごめんね。君を傷つけたいわけじゃないんだ。ただ、会えない分君を感じたくて…」
ゆきの手を取って自分の頬へ寄せ、愛おしそうに擦り寄せる無一郎。
ゆきは、無一郎の額に落ちた濡れ髪をそっと払った。
「あんなに、激しいのは嫌だけど…だけど…」
ゆきが、頬を桜色に染めて上から無一郎を見つめる。
「だけど…何…?」
無一郎が、澄んだ甘えたような目でゆきをじっと見つめる。
「もう少し、優しくしてくれるなら…さっきの続きをしてもいいよ…。」
「いいの?」
「うん」
「わかった。優しくする。激しくしない…」
無一郎は、ゆきを抱き上げた。