第112章 言えない〜時透無一郎 冨岡義勇【R強強】
「今日一日は僕がここに居るから、帰ってもらっていいですよ」
無一郎は冷ややかな視線を向け、素っ気なくそう告げた。しかし義勇は動じる様子もなく、ゆっくりとゆきの傍へ歩み寄ると、目の前で膝をついた。
「また明日来る」
低く静かな声でそう告げると、義勇はゆきの頭をポンポンと優しく撫でた。
その手に触れられた瞬間、背筋に甘い痺れのような緊張が走り、ゆきは思わず身をすくませる。
「…ずいぶん馴れ馴れしいですね」
無一郎の鋭い声が部屋に響くが、義勇はそれを完全に無視した。
「幸、帰るぞ」
傍に控えていた幸を伴い、義勇は部屋を後にした。
残された部屋には、重苦しい静寂が残る。
無一郎の視線がゆきに、向けられる。
ゆきの手に残る震えや、明らかに動揺している様子に気づいたはずだ。
けれど、ずっと逢いたくてたまらなかった愛しい存在を前にして、無一郎はその違和感を深く追及することはしなかった。
ただ無事に再会できた喜びだけが、無一郎の心を満たしていたからだ。
――そして、夜を迎えた。
部屋の隅で小さな灯籠がぽつりと灯り、柔らかい光が室内を包み込む。
会えなかった時間を埋めるように、夕食が終わってから無一郎はゆきを離さなかった。
自分の膝の上に、ゆきを座らせ、後ろから折れそうなほど強く抱きしめている。
そしてゆきの首筋に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
「あぁ…ゆきの香りだ。すごく安心する…」
囁くような愛おしげな声とともに、触れるだけの優しい口づけが首筋に落とされる。
無一郎の温もりと真っ直ぐな愛情を感じるたび、愛おしさと同時に激しい罪悪感が胸を刺した。
私のお腹の中にいる新しい命…
その父親が無一郎くんか義勇さんか、わからないという恐ろしい秘密を抱えたまま、私はただ無一郎くんの腕の中で息を潜めることしかできなかった。
「今夜はさぁ…君を堪能したいから…今から一緒にお風呂に入ろうよ。」
ゆきは、慌てて後ろから抱きしめる無一郎に言った。
「隠達に知られたら恥ずかしいから、嫌だよ」
「大丈夫…隠には近寄らないようにすでに、言ってあるから心配いらないよ」
無一郎は、ゆきを抱き抱えて立ち上がり風呂場へと向かった。