第31章 出会った男、不穏な気配
ある休日。
は、ある場所へ向かうため、雄英から少し離れた街へ出ていた。
在来線を乗り継ぎ、目的の駅に到着する。
午後からの約束だったが、せっかくなら朝から行って、知らない街をぶらぶら歩きながら、適当なカフェでも見つけてゆっくりしよう。
そう思っていた。
駅を出て、特に目的もなく歩く。
天気は朝から曇り空だったが、雨の予報はなかったはず。
足取り軽く歩いていたその時、ぽつ、ぽつ……と頬に冷たい雫が落ちた。
「え、うそ…雨予報じゃなかったのに…!」
思わず空を見上げた瞬間、ぱらぱらと降り始めた雨があっという間に本降りへと変わる。
ざぁ――という音が、静かに街を包んでいた。
は傘を持っておらず、慌てて近くのアーケードへ駆け込もうと走り出す。
「わっ……!」
滑った足がタイルを踏み外し、思わず身体が前に傾く。
次の瞬間、何か固いもの――いや、誰かにぶつかった。
ドンッ
「っご、ごめんなさいっ……!」
雨の中でバランスを崩し、そのまま地面に転がる。
水たまりが服を濡らし、頬に冷たい滴が伝った。
すると、目の前に影が差す。
黒い傘の下から、無言で見下ろす一人の男。
珍しいマスクをしたその男は、ほんの一瞬、言葉を失った。
普段なら、こんな接触など耐えられない。
その辺の人間に触れるなど、ありえない話だ。
だが今は、違った。
の濡れた髪が頬に張りつき、瞳がまっすぐに男を見上げている。
その瞬間、胸の奥で何かがひどくざわめいた。
なぜだ?
この女からは、不快な感覚がしない。
むしろ……近づきたいと、思ってしまった。
理解できない衝動に突き動かされるように、
男はゆっくりと手袋を外した。
「……え?」
の視線がその動きを追う。
男はそんなこと気にも留めず、素手のまま手を差し出した。