第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
想花に集まる人の波のなか、涙と笑いが交錯する。
彼女の頬には、まだ乾ききらない雫の跡があったけれど──
それはもう、“独りきりの涙”じゃなかった。
すると、ぱたぱたと軽快な足音が近づいてきて──
「はいっ!想花も、これ着てっ!」
ミニスカサンタの衣装を手に、芦戸が息を弾ませて笑いかけた。
その目元にはまだ赤みが残っていたけれど、それすらも光のように見えて。
「一緒にやんなきゃ意味ないでしょー? クリパだよ、クリパ!」
何のためらいもなく、差し出されたその手。
戸惑いながらも、想花は──
「うわっ、ちょっ……!」
思わず引かれるまま、玄関をあとにする。
けれど、その背中には。
たくさんの笑顔と、“おかえり”の気持ちが、しっかり寄り添っていた。
「あったかい飲み物、まだあるよ!」
「プレゼント交換、想花の分も取ってあるからな!」
誰かが小さなクラッカーを鳴らし、誰かがサンタ帽を被せてくる。
照明に反射するオーナメント、肩越しに聞こえる笑い声。
そのすべてが夢のようで──
けれど、確かに“ここ”にあった。
あの、無機質な地下の空気も。
血の臭いが染みついた肌の記憶も。
夜の底で何度も噛み殺した嗚咽さえも。
そのすべてを、一瞬だけ忘れさせてくれるような光景だった。
『……ふふっ……』
零れた笑みは、なんだか自分でもくすぐったくて。
こんな風に笑えたのは──いつぶりだったろう。
けれどその笑みの奥には、確かにあった。
“戻らなければならない場所”。
“手を離せば失われる現実”。
──ほんの少しだけ、ほんの少しだけ。
今だけは、“この時間”を大切にしたかった。
想花は静かに深呼吸をして、そっと仲間たちの輪に溶け込んでいく。
そのとき、不意に。
彼女は、着ていたコートのポケットに手を差し入れた。
指先に触れた、柔らかな布の感触。
それは──小さな、紅い巾着袋。
きゅっと握ったその手の中に、言葉にできない想いがぎゅっと詰まっていた。
──きっと、この瞬間のために。
そう思えるくらい、大切な“なにか”が、そこには確かにあった。