第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
『……ただいま』
その一言に、空気が静かに震えた。
数ヶ月、音信もなく消えた少女。
いま目の前に立つその姿が、幻じゃないと誰かが確信した瞬間──
「……バカが」
最初に動いたのは、爆豪だった。
まるで、誰にも触れさせまいとするかのように。
鋭い足音を鳴らしながら彼女に近づき、その肩を乱暴に掴んだ。
「どこ、ほっつき歩いてた……!」
その瞳には怒り。
でもそれは、呆れるほど真っ直ぐな心配からくるものだった。
「てめぇがいねぇ間、誰が……どんな顔してたか知ってんのかよ……っ」
言葉は尖っていても、震えていたのは声の奥。
そして次の瞬間、彼は何かを振り切るように彼女を引き寄せ、強く、抱きしめた。
「……心配させやがって、クソが……」
想花の胸元に、しがみつくように。
その髪に、かすかな震えが混じる。
彼の背中越しに、もうひとつの影が歩み寄る。
静かな足音。真逆の温度を纏って。
「……無事で、よかったよ」
轟だった。
言葉は短い。
けれどその声の温度に、どこまでも深い安心と、息を詰めていた時間の長さが滲んでいた。
想花が顔を上げると、彼はほんの少し、表情を緩めた。
「……また、いなくなったら困る」
そう言って、彼女の頬にふれそうでふれない距離で、そっと手を差し出した。
「だから、もうここにいてくれ」
彼の目はまっすぐだった。
想いを言葉にせずとも、伝わってしまうほどに。
不器用で、真面目で、優しい。
その想いが、まるで波紋のように空間に広がっていく。
──そして、ふたりの腕の中で、想花の瞳からぽろりと涙が零れた。
そのしずくが床に落ちる頃。
ようやく周囲の空気がゆるりと動きはじめる。
誰かが、小さく声を漏らした。
「……ほんとに、想花ちゃん?」
「帰ってきたの……?」
扉の奥から、ひとり、またひとりと駆け寄る気配。
あたたかい空気。
どこか、懐かしい声。
彼女の周りには、いつの間にか、笑顔と涙が集まり始めていた──