第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
壊理ちゃんの声が、震えながら、ぽつりと零れ落ちる。
「……さみしかった……っ」
胸元で泣きじゃくる彼女を、私はただ、ぎゅっと抱きしめた。
その温度だけが、私の心を、どうしようもなく締めつける。
しゃくりあげる彼女の背中を、そっと、そっと撫でた。
私の中で、彼女は“妹”のような存在だ。
守りたくて、手を離したくなくて、でも──それでも、あの時は。
『不安にさせて……ごめん…っ』
やっとの思いで伝えたその一言に、壊理ちゃんの肩が、ふっと緩むのがわかった。
まるで、信じてくれた証みたいに。
──その時だった。
後ろから、静かに触れる手があった。
私と壊理ちゃん、ふたりの肩に優しく添えられた、その手。
「……お前のことは、誰よりも信じてる」
振り返らずともわかる声。
相澤先生の、あたたかくて、静かな言葉。
その一言が、心の底まで滲んでいく。
凍えたままの感情に、火を灯すように。
「話したくなったら、いつでも言え」
短く、それでいて深く。
私のすべてを見透かしてくれるようなその言葉に、思わず胸が詰まった。
「……ここは冷える。さあ、入ろう」
そう言った先生の背中に、私はそっと視線を向けた。
変わらないその佇まいが、胸に沁みる。
ずっと、あの頃と同じように、“生徒”として見てくれていることが、
たまらなく嬉しかった。
ほんの少しだけ、息を吸い込む。
『……先生、ありがとう』
やっと、そう口にできた。
その声に、先生はふとだけ振り返る。
目元の表情は変わらないまま、わずかに頷いて──
「……それが“教師”ってもんだ」
ぽつりと落ちたその一言が、やさしく私の胸を叩いた。
何も変わらない。ちゃんと、ここに“帰ってきていい”と、そう言われた気がした。
先生はそのまま、寮のドアに静かに手をかける。
けれど、すぐには開けない。
今この瞬間を、ちゃんと受け止めさせてくれるように──
私は、ひと呼吸おいて、その背を見つめた。
そこには責める色も、詮索もない。ただ、帰ってきた私を迎える“背中”があった。
私は壊理ちゃんの手を、そっと握り返す。
まだ、ほんの少しだけ怖かった。
──戻るには、勇気がいる。
それでもこの温もりが、背中を押してくれる。
ぎゅっと、彼女の小さな手を握ったまま。
私は、ゆっくりと、あの扉の向こうへ──歩き出した。
