第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
トゥワイスと別れて、静かな廊下を歩く。
いつもと変わらない山荘の空気。
少し乾いた冷気が肌を撫でるたび、
胸の奥が妙にそわそわする。
(──なんか、変だ)
言葉にするにはあまりに些細な違和感。
でも、どこかで感じていた。
彼女の“気配”が、この空間からふと消えたことに。
ちょうど角を曲がった先で、その答えに出会う。
「……ああ、奇遇だね」
コンプレスがいた。
片手に紙袋を下げ、コートの裾を軽く払って、
まるで何気ない日常のひとコマのように微笑んでいた。
「……1人っすか?」
名を出すのは避けた。
何も知らないフリを貫く、いつもの仮面を被って。
「うん、彼女は寄り道中だよ」
柔らかな声だった。けれどその奥に、含みがあった。
「“行きつけ”の店にね。
サンタの衣装を探しに行くんだってさ。
──大切な場所で、誰かに贈り物を届けるために、って」
……その言葉だけで、すべてがつながった。
呼吸が止まった気がした。
心臓がひとつ、大きく打った。
(……雄英)
彼女の“行きつけ”。
彼女が“贈りたい”誰か。
何も言わずとも、彼女がどこへ向かったか──わかってしまった。
ああ。
やっぱり、行ったんだな。
危険なんてことは百も承知のはずだ。
なのに、それでも。
彼女は──
あの場所へ、“プレゼント”を届けに行った。
(……バカだな)
小さく、苦笑が漏れる。
そのくせ、目の奥が熱くなる。
「楽しんでくださいね、クリスマス」
精一杯、いつも通りを装って背を向ける。
けれど、背中に積もる想いの重さは、
気づけば息を呑むほどだった。
何も聞かず、何も止めず、
彼女の選んだ道をただ見守ってくれたコンプレス。
それがどれだけありがたかったか。
言葉にはできなかった。
だから、今は──飛ぶ。
彼女が届けたいと願った贈り物の先へ。
ほんの少しでもいい。
その背中を、見守るために。
(……すぐ行く。今、向かう)
胸の奥で、そっと呟いた。
それだけで、翼はもう動いていた。
──ただの風の影として。
──誰にも気づかれない、ひとつの想いのカタチとして。
風が頬を撫でる。
少し冷たくて、少しあたたかい。
その温度に、彼女の優しさを感じた気がして──
俺は静かに、空を蹴った。