第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
煌めくイルミネーション。
行き交う人々の笑い声。
幸せそうな光景のなかに、私はそっと立ち止まる。
(……こんな顔、見せられないな)
指先が、ぎゅっと箱を掴んだ。
重くない。けれど、どうしてこんなに胸が詰まるんだろう。
──その時。
「……やっぱり泣きそうな顔してる」
肩越しに聞こえた声に振り向くと、
コンプレスがいつもの軽やかな足取りで店から出てきていた。
『……してません』
「…そうだね。 “泣きそうに見えないようにする”のが、すごく上手だから」
それは、どこまでも穏やかで、けれど見透かすような声だった。
仮面越しではない“素顔の声”が、冬の空気をすっと溶かして、私の心にまっすぐ届く。
「残りの買い物、1人でもなんとかなる。……君が“本当の場所”に行きたいなら、今がそのタイミングじゃない?」
彼の声には、何の押しつけもなかった。
命令でも、誘導でもなくて──
ただ、私の決心が芽吹く瞬間を、優しく見届けようとする“支え”のようなものだった。
小さく、息を吸った。
寒さが胸にしみて、けれどその奥に灯るあたたかさが、私をまっすぐにしてくれる。
そして私は、微笑んだ。
『……ありがとう』
紙袋の中から、そっと取り出したひと粒の結晶。
淡い光を宿したそれは、私の“想い”を固めたもの。
言葉では伝えきれない“信じてる”をこめて──
彼の手に、そっと握らせた。
『……約束の“飴玉”。でも、今は食べちゃダメだよ』
『必ず戻ってくるから──待ってて、圧紘さん』
彼の指が、わずかにきゅっと動いた。
その一瞬の反応が、全てだった。
そして。
「──サンタの衣装でも買いに行ったってことにしておくよ。
ちょっとは時間稼げるだろ?」
おどけたように笑ってみせるその声が、
まるで舞台の最後にそっと鳴るカーテンコールのようで。
『……そんな言い訳、誰が信じますか』
「んー……トゥワイスくらいかな? あと、トガちゃんもワンチャン……」
くだらない冗談に、私は小さく笑った。
その笑顔の中に、少しだけ涙の気配をにじませながら。
そして──
足元の空気がふわりと揺れる。
空間がやわらかくほどけ、
私の身体が、光にすくい上げられるように宙へと浮かぶ。
蒼白の粒子が、冬の風に紛れて舞い、
私の姿を優しく包み込むようにして──
ふっ、と消えた。
