第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
ショーケースの前に並ぶ、色とりどりのケーキたち。
「見て、こっちの苺……盛りすぎて沈みかけてるって。これはもう事件だね」
『……ほんとだ。でも、トガさん絶対好きそう』
「だね。じゃあ、これは確定枠として……こっちはチョコ?でもお酒入ってるのか、ダメだな〜。トゥワイスが泣くよ」
『これならいけそう……あ、どうしよう。どれも綺麗で、全部欲しくなってきた』
「選んでいいよ。全部でもいいけど?」
『さすがに全部は……』
軽く笑い合いながら、二人でショーケースを覗き込む。
甘い香り、街のざわめきがガラス越しに遠く響く。
小さな洋菓子店の空気の中、どこかひとときの“日常”が宿るようだった。
「……おふたりとも、仲が良いんですね」
ふいに、レジの奥から店員の女性が微笑んだ。
「見ていて、こっちまでほっこりしました。……素敵なイブを、お過ごしくださいね」
『……』
一瞬、時が止まったように感じた。
(啓悟──)
思い浮かぶのは、温もりに触れた手。
肩を抱き寄せられた夜。
彼が、誰にも言えない優しさで私を包んでくれた時間。
(……笑って、バカみたいに。全部)
ほんのひととき、現実のなかに混ざり込んだ幻のように、思い出が胸を締めつける。
「……っと、じゃあ俺、会計済ませてくるから。君は先に外で待ってて」
『え? でも──』
「大丈夫。ケーキの箱、落とさないように気をつけてな」
そっと手渡された箱は、温かさよりも軽さが際立っていた。
その重さのなかに、自分の“本音”が隠れている気がした。
『……はい』
一歩、店のドアを開ける。
街の空気は、ひんやりとしていて、
まるで現実へ戻る合図のように冷たかった。
(……私、何やってるんだろ)
夜空の下、ケーキの箱を抱えたまま、少しだけ俯いて──
胸の奥にしまった“想い”に、そっと触れた。