第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
12月24日、クリスマスイブの夕暮れ。
人通りがまばらになった商店街は、どこか懐かしいあたたかさを帯びていた。
提灯のように吊られたイルミネーションが、風に揺れて微かに瞬いている。
その下、二人分の足音がアスファルトに響いた。
「えーっと……生クリーム、チキン、ポテサラ、コーラ、あと……紙皿と、サンタ帽?」
『ほんとにこんなに買うの?パーティって、けっこう本気だね』
「そりゃそうだろう、トガちゃんが血眼で“絶対にやる”って言ってたからね。トゥワイスはソワソワしてたし、荼毘は……あれは多分、チキンの分だけ乗ってる」
コンプレスは仮面の代わりに、深めのフードをかぶっていた。
どこにでもいる“ちょっと雰囲気のある男”くらいにしか見えない。
彼の隣を歩く私も、どこかよそいきの顔で。
けれど、その笑みの奥には、誰にも見せないものがある。
『トガさんのメモ、イラスト付きなんだけど……このケーキの形って、絶対無理だよね?』
「それは……“気持ちだけは受け取る”枠じゃないかな。誰かがそう言ってくれるのを期待して描いたんだろうね」
小さく笑い合う。
人のいない裏通りへ入ると、少しだけ空気が冷たくなった。
風が吹き、イルミネーションの灯りが瞬間、揺らいだ。
『……今日は静かだね。なんか、こういう日がずっと続いたらいいのにって思っちゃう』
「君がそう願うなら、演者はその舞台を整えるまでさ」
「でも……君の“本当の願い”は、それだけじゃないんだろう?」
不意に、コンプレスが横目で私を見た。
それは、冗談にも本気にも聞こえる、曖昧でいてやさしい声。
『……ふふ、なんですかそれ』
「ただの演目さ。今夜は、“平和なイブ”の芝居でもしよう」
小さな鐘の音が、遠くから聴こえてきた。
夕暮れの風に乗って、どこかで誰かが笑っている。
──まだ、何も始まってない。
けれど、確かに一歩ずつ「その時」に近づいている。
今はまだ、
たった二人だけの買い出しという、何気ない芝居のままで。