第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
想花side
──あの会議から、数日が経った。
群訝山荘の一室。
木の壁と薄暗い照明。
外の空気なんてほとんど感じられない、けれど見た目はごく普通の部屋。
私は、窓辺の小さなベッドの上に座り込んでいた。
手の中にあるのは、巾着袋──
薄布の奥から、わずかに光がこぼれている。
中には、百を超える結晶。
毎日、ほんのひと欠片ずつ。
誰かの痛みを見て、そっと願った命の光。
自分じゃどうにもできないと知りながら、それでも「助けたい」と願った日々の積み重ね。
──それが今、この手の中にある。
(せめて、これだけでも──)
心の奥で、そう呟いた瞬間、喉の奥がきゅっと詰まった。
私が何もしなければ、きっと誰にも気づかれない。
ただの袋。ただの光。ただの“余分な荷物”。
でも、それは違う。
これは、誰かの命を――誰かの未来を救うかもしれない。
雄英の誰かがまた立ち上がるための、一縷の光になるかもしれない。
(……間に合わなきゃ意味がない)
期限は、あと少し。
あの“計画”が動き出す前に。
その前に、どうにかして──この袋を、雄英に届けなきゃ。
けど。
部屋の扉を開けて、一歩踏み出す想像をしただけで、どこかから視線が突き刺さるような気がした。
スケプティックの声も、影も、今はどこにもない。
だけど、あの目はきっとどこかで私を見張っている。
部屋の中で笑う瞬間も、ただ立ち上がる瞬間さえ、彼にとっては「異常」に映るのかもしれない。
(軽率に動けない……)
その想いが、まるで鎖のように、足元に絡みつく。
焦りは募るのに、身体は動けない。
時間だけが、無情に過ぎていく。
──それでも。
胸の奥で、ひとつの願いだけは、消えなかった。
(……絶対に誰も……死なせない……)
この小さな結晶に込めた光が、
この手の中から、どこかの未来へ届くように。
私はそっと巾着袋を抱きしめて、閉じた瞳の奥に、雄英の風景を思い浮かべた。
まだ帰れない。けど、必ず戻る。
どんな形でも。
何もできなくても。
せめて──この想いだけは、あの場所に届きますように。