第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
ホークスside
──ほんの一枚、
会議室の外に置いてきた羽が一つ。
役目は情報収集。
空気の震えを拾い、音に変える──
誰にも気づかれず、別の部屋の隅で静かに“聴いて”いた。
報告の内容はほとんど予想通り。
けれど、胸の奥はざらついて、ざわめいていた。
あいつがそこに座っているだけで、
言いようのない焦りが喉の奥にへばりつく。
(……耐えろ)
自分に言い聞かせながら、音を拾い続ける。
やがて、椅子が引かれる音。
重たいドアの開閉。
そして、会議が終わった静けさが羽越しに伝わってくる。
(よし、これで──)
そう思った瞬間。
“ふわ”っと、
誰かの指先が羽に触れた感触が、かすかに伝わってきた。
(……誰かが、拾った?)
力の入れ方でわかる。
無造作じゃない。
まるで、そっと“拾い上げる”ような優しい指先。
息を潜めて、鼓膜を羽に集中させる。
聞こえてくるのは、布の擦れる音。
軽い吐息。
歩き出す靴音……そして。
──静かな部屋の中。
羽が置かれる音と、誰かの吐息が間近で響いた。
『……啓悟……っ』
──。
一瞬、耳が嘘をついたと思った。
けれど、
何度聴き返しても空耳じゃない。
間違いなく、
あの子の声で──
誰もいない部屋で、誰にも届かない声で。
おれの名前を、呼んでいた。
喉の奥がぐっと詰まる。
思わず口を手で覆い、息を止めた。
(やめろ……そんな顔、するなよ……)
見えているわけじゃないのに、
彼女の表情が手に取るように浮かぶ。
柔らかく、寂しそうで、
それでもきっと笑っている──そんな顔。
(……会いたくなるだろ)
届かない、触れられない。
ただ一枚の羽だけを間に挟んで、
彼女の声だけが、確かにここまで届いてくる。
胸の奥で、痛みと温もりが同時に広がった。
けれど今は、
この声ひとつで、
十分すぎるほど心が揺れる。
(……バレんなよ)
誰にも。公安にも、連合にも。
そして、彼女にも──
おれが今、どんな顔をしているかなんて。