第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
会議が終わると同時に、空気がゆっくりと解けていく。
リ・デストロが部屋から去ると、ヴィラン連合や異能解放軍の幹部たちは無言のまま立ち上がり、それぞれの思惑を胸に、会議室をあとにしていった。
扉の開閉音がいくつも重なり、やがてその場には誰もいなくなる。
私も静かに席を立ち、会議室を出た。
人気のない廊下に出ると、空気が違って感じられた。
湿り気を帯びた冷気と、微かに残る香り──
そこで、ふと足が止まる。
足元。床に落ちた、一枚の赤い羽。
(……)
そっと屈み、指先でそれを拾い上げる。
温度はもうなかったけれど、それでも、
まるでさっきまであの人がここにいたことを証明してくれるような気がした。
そのまま、誰にも会わず、自室へ向かう。
金属製のドアを閉めると、ようやく胸の奥から、溜め込んでいた息が抜けていく。
沈黙だけが支配する狭い部屋。
私はそっとベッドに腰を下ろし、手の中の羽を見つめた。
(こんなもの……ひとつ、だけなのに)
言いようのない寂しさが胸に滲んで、喉の奥がじんと痛む。
それでも、落としそうにないよう、両手で大切に包み込んだ。
(あの人のすべてが、ここにあるわけじゃない)
(でも、たったこれだけでも、私には……)
──愛しい。
頬を寄せるようにして、羽を胸に抱いた。
それだけじゃ、足りなくて。
目を閉じて、そっと唇を近づける。
そして、囁くように、声を漏らした。
『……啓悟……っ』
この名前を、声に出したのは、いつぶりだったろう。
誰にも聞かれないように、小さな声で。
でも、確かに私の心から零れたその名前は、
羽と一緒に、そっと、時間の中に沈んでいった。
(……触れられないなら、せめて)
(あなたに想いを伝える場所が、どこにもないのなら──)
そっとキスを落とした。
小さな羽に、すべての想いを託すように。