第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
好きなだけ抱きしめて。
好きなだけキスして。
好きなだけセックスして――。
そこまで考えて、自分で少し笑った。
そんな普通で、どうしようもなく欲深いことを。
僕はあの子としたい。
傑の言葉が、ふと蘇ってくる。
『ただこの世界では、私は心の底から笑えなかった』
僕たちはどこで間違えたのか。
僕は傑に何をしてやれたのか。
今でも、答えなんて分からない。
だけど、大切なやつが心から笑えなくなっていくのを。
もう、黙って見ているつもりはない。
誰の生まれ変わりだろうと、どうでもいい。
どんなものを、過去から背負っていたっていい。
ただ僕の隣で、がのまま笑ってくれればいい。
僕らがどこへ行くのか。
どんなふうに生きて、最後にどんな顔で笑うのか。
そんなものまで、過去に決められてたまるか。
僕らの未来は、僕らで選べばいい。
・
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非常階段の扉を押し開け、たちの元へ戻る。
待合室が見えたところで、足が止まった。
野薔薇は俯いたまま、膝の上で拳を握りしめていた。
その肩が微かに震えている。
その隣では、が声を殺して泣いていた。
伊地知は二人から少し離れたところに立って、俯いている。
(間に合わなかったか……)
処置室の扉はすでに開いていて、その静けさが答えだった。
次は、。
そう言われた気がした。
「……諏訪烈」
自然と口角が上がる。
「乗ってやるよ」
ただし――。
お前の望む結末になると思うなよ。