第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
持っていた写真を祭壇に放り出し、扉へと走った。
「釘崎さん!?」
背後で呼ぶ声を無視して、外へ飛び出す。
悲鳴は、頭上から降ってきた。
中庭に飛び出した私は、反射的に校舎を見上げる。
校舎の屋上。
フェンスの外側に、一人の女子生徒がいた。
身体の半分以上が屋上の外へ投げ出され、片足だけが辛うじて縁に残っている。
指が金網に引っかかっているだけで、その身体は今にも下へ落ちそうだった。
風に煽られて揺れるその姿に、見覚えがある。
を騙して細井の手引きをした、あの女の子。
(あの子……!)
そう思った瞬間、強い風が吹いた。
彼女の身体が屋上の縁から離れ、そのまま落下していく。
(くそっ!)
考えるより先に、手が腰のホルダーへ伸びていた。
指の間に数本の釘を挟み、一気に呪力を込める。
(外すなよ、私……!)
カキンッ、カキンッ、カキンッ!
連続して打ち放った釘が、校舎の壁に深く突き刺さる。
私は地面を蹴り、壁へ向かって跳んだ。
突き刺さった釘を足場代わりに、靴底を引っかける。
無理やり体を持ち上げて、落下してくる彼女の軌道へ飛び込んだ。
「……っ!」
空中で、彼女の身体を思い切り抱き寄せる。
細い肩を両腕でしっかりとホールドして、自分の体をクッションにするように反転させた。
背中から、地面に叩きつけられる。
「……っ、ぐっ……!」
呪力で強化はしたものの、多少の衝撃は免れない。
(……いっっった)
彼女は、すでに気絶したのかぐったりとしていた。
とりあえず、生きてはいるか。
こういうのは、虎杖の担当なのに。
痛む身体を起こして、彼女が落ちてきた校舎の屋上を見上げる。
フェンスの向こう側。
そこから、こちらを見下ろしている一つの人影があった。
(……あいつね)
顔は見えない。
でも、分かる。
今あそこに立って、こっちを見下ろしている時点で、無関係なわけがない。
「今、屋上から……!」
「何が……っ!」
いつの間にか中庭には、悲鳴を聞きつけた生徒たちが集まってきていた。
遠巻きにこちらを見て、騒いでいる。
私は腕の中にいた彼女を抱き起こし、一番近くにいた生徒へ強引に預けた。