第20章 「君の心をさらったその日から**」
「これは、プリザーブドフラワーだ」
「……プリザーブド、フラワー?」
聞き慣れない単語に思わず問い返すと、硝子さんは頷いた。
「特殊な液体で水分と色素を抜いて、別の保存液を染み込ませた花。見た目は生花とほとんど変わらないから、見間違えてもおかしくない」
硝子さんはそう言ってから、少しだけ言葉を区切った。
「それよりも問題なのは、色だ。これ、本来は“白”のアネモネだった」
「白……だった?」
私の問いに、硝子さんは頷いた。
「プリザーブドフラワーは、後から色をつけられる。保存液に着色料を混ぜるだけだ」
その視線が、私へ向けられた。
「着色液の成分を解析したら、微量だが“人の血液”が混ざってた」
「DNAを照合したら――、おまえのものと一致した」
「え? わ、私……!?」
「千葉の港での任務中、大怪我しただろう。あの現場で採取したんじゃないか」
隣で先生が低く舌打ちする。
「……っち。相変わらず気色悪いことするヤツだ」
硝子さんがアネモネの花弁をつまみ、蛍光灯に透かす。
照らされた赤は、まるで……乾かない血のように、艶やかだった。
「まあ、諏訪烈が“のストーカー”って言うなら、これだけでも恐怖を植え付けるには十分だな」
「けど……これ、“何かのメッセージ”って可能性はないか?」
「は? どんな? 愛の言葉とか?」
先生は眉間に皺を寄せ、半ば本気で吐きそうな顔になっていた。
硝子さんは、くくっと笑ってからかうように続ける。
「あながち冗談でもない。赤いアネモネは、“君を愛す”って意味の花言葉があるから」
「お゛っえ~~~~~っっ」
今度こそ、先生が本気でうめき声を上げた。
後ろにのけ反ってソファに倒れ込む。
「やめて……の前でそういうのマジやめて……っ」
「五条、うるさい」
硝子さんは先生にそう言い捨てながら、自分のデスクへ戻った。
血を吸わせた赤い花。
花言葉だけじゃない気がした。
これには、まだ言葉になっていない“何か”があるような……
そう考えた瞬間、背筋が冷たくなるのを感じた。