第4章 「触れてはいけない花」
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窓の外は、夜の深い藍に沈んでいた。
はベッドの上で枕を抱き、頭を埋めた。
今日一日の光景が、何度も何度も頭の中で繰り返される。
自分の名前を呼ぶ、低くて、でも心地よい声。
髪に触れられた先生の指先の感覚。
花びらを差し出してきた時の、あの距離の近さ。
(……なに、これ……)
胸が苦しくて、枕を強く握る。
先生の笑顔が、声が、頭の中に焼きついて離れない。
「だめ……考えちゃだめ……」
先生なのに。
あの人は、みんなの先生なのに。
どうして、自分だけがこんなにおかしい。
涙がこぼれる。
理由もわからない涙だった。
――そのとき。
頭の中で、あの女の声が蘇る。
『……その熱が育つほど――おまえは私とひとつになる』
ははっと顔を上げた。
『あの男も、おまえの中の熱も、すべて呑み込め。それがおまえの“目覚め”だ』
夢の中で聞いたはずの声が、今この部屋で囁いているように響く。
背筋が冷たくなるのに、胸の奥はさらに熱を帯びていく。
「……やだ……やめて……」
耳を塞いでも、声は消えない。
まるで、この胸の熱を望んでいるかのように。
怖い。
でも、抗えない。
(私、どうなっちゃうの……)
闇に沈む部屋で、は小さく震えていた。
その熱がどこへ向かうのかもわからないまま――。