第9章 忘れられた子どもたち
麻衣が独鈷杵を引き抜き、あたしは慌てて不動明王印を組む。
「ナウマクサンマンダバザラダンカン。臨兵闘者皆陣烈在前……!」
間に合わなかった。
九字を切った時には、もうぼーさんは闇に飲み込まれていた。
「麻衣、結衣!来い!」
あたし達はナルに連れてられて二階の教室へと飛び込んだ。
ぼーさんが清めた一つの教室であり、飛び込んだあたしたちを見てナルが扉を閉めた。
「……ぼーさん」
じわりと涙が浮かぶ。
「ぼーさん……どうしよう、ぼーさん……」
「どうしよう……どうし……よう……」
喉から嗚咽が漏れる。
泣いたって仕方ないのに、涙が止まらない。
「──誰かもう一人、運転の出来る人間がいたはずだ。車が二台あるんだから。その人物は下に子供たちといたはずなんだ」
ナルの冷静な呟きに、あたしと麻衣は顔を上げる。
「……なのに、あたしたちはその存在をわすれてた……?」
「そのようだは。ぼくらは村長に除霊を依頼されてここへ来た。その途中であの子たちに道案内を頼んで、結果として一緒に閉じ込められた……?」
「そう……だったと思うよ」
「うん……そのはず」
自信がない。
そうだったはずだが、何故かとてもそう言いきれない気がした。
「五人の子供を残して、除霊にかかったような気がしているがこれはウソだ。実際にはもう一人の仲間が下にいた。だとしたらその一人は霊能者として有能だった。少なくともぼーさん程度にはアテになると思っていたから子供たちと残したはずだ」
車の運転が出来るもう一人の仲間。
『ボクです』
姿が思い浮かぶ。
太陽のように明るい笑顔に、金色の柔らかい髪の毛と海のようなブルーの瞳の変な関西弁の仲間。
「……ジョンだ」
「ジョン・ブラウン……」
「……ああ」
「でも、ジョンて運転できた?」
「ジョンが自分でそう言ってたろ」
「そうだけど……でもそれも間違いだったってことはない?」
それは有り得る。
間違いだった可能際があるのだ。
「下にいるのが子供たちだけだって思ったみたいに、ジョンは運転できるって……ジョン本人もあたしと麻衣やナルにぼーさんも思い込んでたってことじゃない?」
あたしの言葉にナルが目を微かに見張った。