第9章 忘れられた子どもたち
綾子は床を見ていた。
何があったのだろうと思い、床を見れば赤黒い液体がそこに付着している。
ナルは屈むとその赤黒い物に触れた。
よく触れられるものだと思いながら、ナルが指先を擦るのを見つめる。
「……血のようだな」
「血!?まさか……リンさんの!?」
「分からない。まだ新しいのは確かだが」
何故、ナルはここまで落ち着いてられるのか。
リンさんが行方不明になったのと同時に、血が落ちているという状態なのに。
「なんでナルは落ち着いてられるの!?」
「そうだよ!なんでそんなに落ち着いているわけ!?」
「結衣!麻衣!」
思ったより責めた口調になったのと、パニックになっているような言葉が出てしまった。
それを咎めるように綾子があたしたちの名前を呼ぶ。
「もう一度捜してみよう?どこか盲点に入った場所があるかも」
「さいです。窓も見てみましょう」
結局何処を捜してもリンさんはいなかった。
この小さな校舎をこれだけ捜してもいないなんて、一体どいうことなんだと眉を寄せる。
(リンさん……どこに行ったの……)
不安が押し寄せてくる。
彼の身に何が起きたんだと、そして無事なのだろうかと。
すると麻衣が恐る恐るとナルに尋ねた。
「──ねえ、リンさんなら一人でいても大丈夫だよね」
「わからない」
「分からないってそんな!」
「それが事実だ。なにが起こったのか、リンがどうなったのかもわからない。ぼくらに分かるのはリンが校舎の中にいないということだけだ」
「……やっぱり、行かせるんじゃなかった」
ポツリとあたしが呟くと、誰もが黙ってしまう。
(リンさんを一人で行かせるべきじゃなかった。そもそも行かせなきゃ良かったんだ)
じわりと目頭が熱くなる。
あの時ちゃんと止めていれば良かった、引き停めれば良かったといくら後悔しても遅いというのに……。
「大丈夫よ、きっと。リンには式もついてるもの」
「うん……そうだよね」
「うん」
今は願うしかない。
リンさんはきっと大丈夫だと。
「とにかく注意のうえにも注意することだ。絶対に一人にならないこと、できるだけ人の傍にいて周囲の人間から目を離さないこと。何かが起こった時は近くの人間の腕でも服でも掴むように」
「う、うん……」
「分かった」