第9章 忘れられた子どもたち
「けど、欧米やとそうとも限らへんのです。ただ出現するだけゆうのが多いんです。祟る霊の話は少ないし、ましてや血筋にとりつくゆう話はもっと少ないです」
「へええ……そうなのか」
欧米と日本では幽霊の質が違うのか。
それはそれで不思議なものだと思いながら、チラリとナルを見る。
こういう事はナルが一番詳しそう。
なんたってこういうのに対しての専門家であるのだから。
「いかがですか、先生」
ニヤリとぼーさんが笑うと、ナルは無表情で答える。
「──いわゆる幽霊に関する研究というのは心霊現象全般の中でもっとも混沌としているのが現状だな。なぜなら幽霊は実験室に現れてくれないからだ」
また難しそうな話になりそう。
なんて思いながらも、大人しくナルの話を聞く。
「超能力は実験室に能力者を呼んで実験することが出来る。幽霊に対してはそれが出来ないので、実験のしやすい霊が対象になってしまう。霊媒の呼び出す霊なんかだな。あるいは観測しやすいポルターガイスト。そのほかの幽霊についてはたまたま幽霊を見る幸運に恵まれた人間の証言を収集するしか研究の方法がない」
やっぱり難しい話。
そう思いながらも、分かるところは分かるので取り敢えず頷いておく。
「だがその証言の何パーセントが事実なのかを確かめる方法がほとんどない。日本にも欧米にも目撃談ならいくらでもあるが、それが人の証言である以上すべてを信用するわけにはいかない」
「う……うん」
「そりゃ、そうだね……」
「たとえば日本の幽霊は祟る、欧米の幽霊は祟らないとする。これは日本と欧米の幽霊に違いがある事を示しているだろうか?」
「どっちもあんまり性質に差がある気はしないよね。日本の猫もアメリカの猫もネズミを食べるのと一緒で」
「たとえが悪いがその通りだ。これにはこういう考え方ができる。欧米では祟りをなす凶悪な霊は『悪魔』という言葉で呼ばれてしまうからだ、と」
ナルの言葉に『あ』と声が漏れた。
「祟る霊は『悪魔』と呼ばれ、祟らない霊が『幽霊』という言葉の範囲に残るからだ」
「な、なるほど……」
「そういうこと……」
納得出来る説明であった。
やはりナルは専門家だなと思いながら、汗で張り付いた前髪を手で撫でる。